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銭形平次捕物控
ぜにがたへいじとりものひかえ
副題338 初姿銭形平次 八五郎手柄始め
338 はつすがたぜにがたへいじ はちごろうてがらはじめ
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「銭形平次捕物控(九)不死の霊薬」 嶋中文庫、嶋中書店
2005(平成17)年1月20日
初出「西日本新聞」1930(昭和5)年1月3日
入力者山口瑠美
校正者noriko saito
公開 / 更新2016-03-30 / 2015-12-24
長さの目安約 9 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 明神下の銭形の平次の家へ通ると、八五郎は開き直って年始のあいさつを申述べるのです。
「明けまして、お目出とうございます――。昨年中はいろいろ」
「待ってくれ、その口上はもう三度目だぜ、ごていねいには腹も立たないというが、お前の顔を見るたびごとに、一つずつ年を取りそうで、やり切れたものじゃない、頼むから世間なみのあいさつをしてくれ」
 もっとも、三度目の年始に来た八五郎は、かなり酔っております。
「相すみません。悪気じゃなかったんで、余計ぶんの口上は、来年の年始に回しておいて下さいよ、何しろ、目出たいの目出たくないのって、今年の正月は別あつらいで――」
「正月に出来合いも別あつらいもあるものか」
「そうともいえませんよ、今年の正月は、滅茶滅茶な大当たりで、私はもう」
 八五郎は長いあごをなでまわして、髷節でのの字を書くのです。
「大層なきげんじゃないか、新色でも出来たのか」
「そんなものは珍しかありませんよ。古い借金と新色はついて回るが、小判なんというものは、滅多なことじゃこちとらの身についてくれません」
「なんだと、お前はまさか、小判を手に入れたわけじゃあるまいな」
「ところが、確かに小判を手に入れたに違いありませんよ。天道様に照らされても、とたんに木の葉にもならず、両国で一杯飲んだのが崩し始めで、柳原の土手を酒屋と小料理屋を一軒一軒飲み歩いて、七、八軒目にここへたどり着きましたが、小判というものはつかい出がありますね、親分」
 ペロリとくちびるをなめて、両掌を宙に泳がせる八五郎です。
「あきれた野郎だ。そんな金をどこで拾った、まさか、盗んだわけじゃあるめえ」
「あれ情けない。たまたま稼いでもうけた金を持っていると、こうも疑られるものですかね、貧乏人は」
「一両は大金だ。お前にそんな働きがあるわけはねえ」
「いよいよ驚いたなア。こう見えても、智恵を働かせて稼いだ金で、どこへ出しても、きまりの悪くない一両小判ですぜ」
「それじゃ、聞いてやろう」
 平次はむずと腕を組みました。八五郎の人の良さはわかりすぎるほどわかっておりますが、万一にも間違いをさせたくない、平次の潔癖さの現われです。
「わけを話すとこうですよ。本所花町、三つ目通りに、江島屋という万両分限の材木屋のあることを親分もご存じでしょうね」
「知ってるとも、先代は七兵衛、――良い男だったが、仕事に熱心な男で敵を作りすぎたから悪七兵衛と言われた。なんでも一年ばかり前に、日光山御造営のことで間違いがあったとかで、行方不明になったはずだが、たれでも知ってるよ」
「その七兵衛の義理の弟――半三郎というのが今の主人で、相変わらず材木屋をやっているが、昔のようなことはありません。――ところで、その先代七兵衛の娘に、おさめさんという、とって十八になる娘がある。母親は三年前に亡くなり父親は一年前から行方知れず、叔父の…

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