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随筆銭形平次
ずいひつぜにがたへいじ
副題13 平次身の上話
13 へいじみのうえばなし
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「銭形平次捕物控(一)平次屠蘇機嫌」 嶋中文庫、嶋中書店
2004(平成16)年5月20日
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者noriko saito
公開 / 更新2016-10-15 / 2016-09-09
長さの目安約 15 ページ(500字/頁で計算)
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本文より



 銭形平次の住居は――
 神田明神下のケチな長屋、町名をはっきり申上げると、神田お台所町、もう少し詳しくいえば鰻の神田川の近所、後ろは共同井戸があって、ドブ板は少し腐って、路地には白犬が寝そべっている。
 恋女房のお静は、両国の水茶屋の茶汲女をしたこともあるが、二十三になっても、娘気の失せない内気な羞かみやで、たった六畳二た間に入口が二畳、それにお勝手という狭い家だが、ピカピカに磨かれて、土竈から陽炎が立ちそう。
 そのくせ、年がら年中、ピイピイの暮らし向き、店賃が三つ溜っているが、大家は人が良いから、あまり文句をいわない。酒量は大したこともないが、煙草は尻から煙が出るほどたしなむ。お宗旨は親代々の門徒、年は何時まで経っても三十一、これが、銭形平次の戸籍調べである。



 実際は元禄以前、寛文万治までさかのぼった時代の人として書き起こされたものであるが御存知の通り、それは挿絵の勝手、風俗の問題――衣裳から小道具まで、はなはだ読物の世界に不便であるために作者の我がままで幕末――化政(文化・文政〈一八〇四―三〇年〉)度の風景として書かれ、特別な考証を要するもの以外は、はなはだ済まないことではあるが、頬冠りのままで押し通している。
 芝居道でいえば、「寺子屋」の春藤玄蕃が赤い裃を着て威張ったり、「鎌倉三代記」の時姫がお振り袖をジャラジャラさせ、「妹背山」の鱶七が長裃を着けるのと、同じ筆法と御許しを願いたい。
 銭形平次の物語を書き始めてから二十年になるが、平次はどうして年をとらないのだという小言をひっきりなしに頂戴している。
 それについて、いつか「週刊朝日」の誌上で辰野隆博士の質問に答えているが、連続小説の主人公の年齢を読物の経過する年月と共に老い込ませていくのはおよそ愚劣なことで、モーリス・ルブランのルパンがその馬鹿馬鹿しい例を示していると私は答えておいた。小説の主人公は何時までも若くてそれでよいのだ。大衆文芸の面白さはそのコツだといってもよい。
 平次の女房のお静は、両国の水茶屋時分、平次と親しくいい交わすようになって、平次のために不思議な事件のうずの中に飛び込み、危うく命をかけた大手柄は、二十三年(昭和六年)前「オール読物」に書いた、銭形平次の第一話「金色の処女」に詳しく書いてある。しかしそんな事はどうでもよい。お静は何時までも若くて愛嬌があってそして、フレッシュであればいいというと、辰野隆博士は面白そうにカラカラと笑った。
 ところで、その銭形平次は実在の人間か――ということをよく訊かれる。大岡越前守や、遠山左衛門尉と同じように、『武鑑』に載っている人間ではないが、江戸時代の記録が散逸して、襖の下張りになっているから、お寺に人別があったかどうか、私といえども判然としない。恐らく岡本綺堂の半七親分や、佐々木味津三のむっつり右門君と同じことであろう…

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