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自来也の話
じらいやのはなし
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「綺堂随筆 江戸の思い出」 河出文庫、河出書房新社
2002(平成14)年10月20日
初出「演劇画報」1925(大正14)年5月
入力者江村秀之
校正者川山隆
公開 / 更新2014-02-20 / 2014-09-16
長さの目安約 9 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 自来也も芝居や草双紙でおなじみの深いものである。わたしも「喜劇自来也」をかいた。自来也は我来也で、その話は宋の沈俶の「諧史」に載せてある。
 京城に一人の兇賊が徘徊した。かれは人家で賊を働いて、その立去るときには必ず白粉を以て我来也の三字を門や壁に大きく書いてゆく。官でも厳重に捜索するが容易に捕われない。かれは相変らず我来也を大書して、そこらを暴してあるく。その噂がますます高くなって、賊といえば我来也の専売のようになってしまって、役人達も賊を捕えろとは云わず、唯だ我来也を捕えろと云って騒いでいるうちに、一人の賊が臨安で捕われた。捕えた者は彼こそ確かに我来也であると主張するのであるが、捕えられた本人はおぼえもない濡衣であると主張する。臨安の市尹は後に尚書となった趙という人で、名奉行のきこえ高い才子であったが、何分にも証拠がないので裁くことが出来ない。どこかに賍品を隠匿しているであろうと詮議したが、それも見あたらない。さりとて迂闊に放免するわけにも行かないので、そのまま獄屋につないで置くと、その囚人がある夜ひそかに獄卒にささやいた。
「わたくしは盗賊に相違ありませんが、まったく彼の我来也ではありません。しかしこうなったら何の道無事に助からないことは覚悟していますから、どうかまあ勦わって下さい。そのお礼としてお前さんに差上げるものがあります。あの宝叔塔の幾階目に白金が少しばかり隠してありますから、どうぞ取出して御勝手にお使いください。」
「それはありがたい。」
 とは云ったが、獄卒は又かんがえた。かの塔の上には登る人が多いので、迂闊に取出しにゆくことは出来ない。第一あんなに人目の多いところに金をかくして置くと云うことが疑わしい。こいつそんなことを云って、おれに戯うのではないかと躊躇していると、かれはその肚のなかを見透かしたように又云った。
「旦那、疑うことはありません。寂しいところへ物を隠すなどは素人のすることで、なるたけ人目の多い賑かいところへ隠して置くのがわたくし共の秘伝です。まあ、だまされたと思って行って御覧なさい。あしたはあの寺に仏事があって、塔の上には夜通し灯火がついています。あなたも参詣の振りをして、そこらをうろうろしながら巧く取出しておいでなさい。」
 教えられた通りに行ってみると、果して白金が獄卒の手に入ったので、かれは大いに喜んだ。そのうちの幾らかで酒と肉とを買って内所で囚人にも馳走してやると、それから五、六日経って、囚人は又ささやいた。
「もし、旦那。わたくしはまだ外にも隠したものがあります。それは甕に入れて、侍郎橋の水のなかに沈めてありますから、もう一度行ってお取りなさい。」
 獄卒はもう彼の云うことを疑わなかったが、侍郎橋も朝から晩まで往来の多いところである。どうしてそれを探しにゆくかと思案していると、囚人は更に教えた。
「あすこは真昼間…

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