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餅を買う女
もちをかうおんな
作品ID56511
著者岡本 綺堂
文字遣い新字新仮名
底本 「綺堂随筆 江戸の思い出」 河出文庫、河出書房新社
2002(平成14)年10月20日
入力者江村秀之
校正者川山隆
公開 / 更新2014-02-20 / 2014-09-16
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


 小夜の中山の夜泣石の伝説も、支那から輸入されたものであるらしく、宋の洪邁の「夷堅志」のうちに同様の話がある。
 宣城は兵乱の後、人民は四方に離散して、郊外の所々に蕭条たる草原が多かった。
 その当時のことである。民家の妻が妊娠中に死亡したので、その亡骸を村内の古廟のうしろに葬った。その後、廟に近い民家の者が草むらの間に灯のかげを見る夜があった。あるときはどこかで赤児の啼く声を聞くこともあった。
 街に近い餅屋へ毎日餅を買いにくる女があって、彼女は赤児をかかえていた。それが毎日かならず来るので、餅屋の者もすこしく疑って、あるときそっとその跡をつけて行くと、女の姿は廟のあたりで消え失せた。いよいよ不審に思って、その次の日に来た時、なにげなく世間話などをしているうちに、隙をみて彼女の裾に紅い糸を縫いつけて置いて、帰るときに再びそのあとを附けてゆくと、女は追ってくる者のあるのを覚ったらしく、いつの間にか姿を消して、赤児ばかりが残っていた。糸は草むらの塚の上にかかっていた。
 近所で聞きあわせて、塚のぬしの夫へ知らせてやると、夫をはじめ一家の者が駈けつけて、試みに塚を掘返すと、女の顔色は生けるがごとくで、妊娠中の胎児が死後に生み出されたものと判った。
 夫の家では妻のなきがらを灰にして、その赤児を養育した。


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