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新憲法に関する演説草稿
しんけんぽうにかんするえんぜつそうこう
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「戦後日本思想大系1 戦後思想の出発」 筑摩書房
1968(昭和43)年7月1日
初出「幣原喜重郎」幣原平和財団、1955(昭和30)年
入力者しだひろし
校正者荒木恵一
公開 / 更新2015-11-03 / 2015-09-01
長さの目安約 6 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 私は先ず我国民生活が目下の窮迫情態に陥った原因に溯って一言したいことがあります。我々は昭和六年満州事変の発生以来、昭和二十年太平洋戦争の終了に至る迄、我国が対外関係に於いて執り来った行動を、冷静に、客観的に顧みてみまするならば、遺憾ながら正しい道を踏み誤まった事実を認めざるを得ませぬ。その行動が、仮令何ずれの大国でも過去の歴史を穿鑿すれば有り勝ちの性質のものであったとしても、又国民の各自には何等の責任がなかったとしても、国家の構成分子たる個人は、国家機関の行動に就いて或程度の共同責任を免がれ得るものではない。我々は誤まった国権の発動に連座して精神的にも、物質的にも絶大な苦難に[#挿絵]いているのが現状であります。併し我々は今更これが為めに何人をも怨みませぬ。何ずれの国にも反感を抱きませぬ。黙々として自ら省み、己れを責め、如何に辛らい試錬でも堪え抜く決心を極めております。この自己反省のない処に不平や煩悶が起こるのであります。
 日本の前途は寔に多難でありますが、暗闇ではありませぬ。我国当面の悩みは病気の兆しではなく、産前の陣痛であります。陣痛が始まると、健全な、元気溌溂たる新日本が生まれ出ずることを信じます。永く平和の恵みと、文化の潤いに浴する国家が、茲に固い基礎を据えんとしているのであります。その新日本は厳粛な憲法の明文を以て戦争を放棄し、軍備を全廃したのでありますから、国家の財源と国民の能力を挙げて、平和産業の発達と科学文化の振興に振り向け得られる筋合であります。従って国費の重要な部分を軍備の用に充当する諸国に比すれば、我国は平和的活動の分野に於いて、遙に有利なる地位を占めることになりましょう。今後尚若干年間は我国民生活に欠乏と不安が続くものと覚悟しなければなりませぬけれども、国家の生命は永遠無窮であります。人間万事は塞翁の馬であります。この理を悟ってみれば、当分の受難時期は偶々我々並びに我々の子孫に貴い教訓を垂れるものとして、禍を福に転ずるの意気込が茲に湧いて来るのであります。
 然らば他日若し外国より我国の軍備が皆無なるに乗じ、得手勝手の口実を構えて、日本領土を侵かすことがあらば、我国として之に処すべき自衛対策如何。この問題は当然我国民の最大関心事であります。之が対策に就いては追々締結せらるべき講和条約又は国際協定中、或は日本が行く行くは何等か相当の自衛施設を有つことを認められるような取極が望ましいとか、或は永久局外中立国たる保障を求むべきであるとか、或は又何ずれかの国より事態の必要に応じて、兵力的掩護を受ける約束を取付けられたいとか、種々の意見があるように聞こえます。この際私一己の考えを卒直に述べることを許されますならば、かかる意見は何れも現実の政策として適切なものとは思われませぬ。
 第一に我国に於いて自衛に必要なる施設を保有せしむることを希望す…

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