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宝くじ・その後
たからくじ・そのご
副題始めてから十三年
はじめてからじゅうさんねん
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「日本の名随筆 別巻56 賭事」 作品社
1995(平成7)年10月25日
入力者門田裕志
校正者noriko saito
公開 / 更新2014-09-11 / 2014-09-16
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 池袋のコーヒー店で、I氏を待っている間を、顔見知りの常連の人達が来るたびに、宝くじを買ったことがあるかどうかを一々たずねてみた。
 貿易商のSさんは、時に買うことはあるが、当ったことがないというのである。ある高校の教師をしているHさんは、自分としては買ったことはないのであるが、母から頼まれて買うことがあるという。またある小学校の教師であるK君は、買ったことなんかありませんよといって、どうせあんなの当りませんよというのである。それで、K君は宝くじ屋さんの前をいつも素通りしているわけになるのであるが、お母さんから頼まれて買う時のHさんの宝くじの買い方をきいてみると「自分のではないから選ばずに買う」とのことである。自分のだったら選ぶのかと愚問をさしはさむと、「自分は買わないのだから選ぶこともない」という。
 記者のI氏と連れ立って、寒い風のなかに出ると、西武デパートの前の歩道に、ネッカチーフのふたりの宝くじ屋さんが店をひろげている。台の両側に赤く縁どった張り紙がしてあって、墨書で「今日明日限り」とある。抽せんが明後日に迫っているからなのだ。
 手前のおばさんの耳のそばまでI氏が近づいて身分のほどを明らかにすると、おばさんはにっこりうなずいた。一年前から宝くじの店を出しているという。天気の日なら一〇〇枚は売れるとのこと、最高七〇〇枚位のこともあるという。なんといっても一枚買いの客が圧倒的で、二枚とか三枚とか買いに来る客もあるが、なかには五〇枚ほどごっそり買って行く客もあるとのことである。「このごろは婦人の方が多いようですね」とおばさんはいってから、「ラッシュはサラリーマンが多いんです」とつけ加えた。
 まるぶつデパートのマタの下が池袋駅の東口玄関。歩道に面したそこの大きな角柱を背にして、宝くじを売っている若い男がいる。臨時だとのことでこちらの話を避けたが、何枚売れたかをたずねると「一枚」と答えた。
 横断歩道をわたり、三越デパートに足を運んだ。前の三角くじのころは、デパートのなかでもそれを売っていたとのことを聞いていたのだが、空しくそこを出た。
 日本橋へ向っての車中、宝くじの話がでて、「ああいうのはだめだね」と、運転手さんが頭ごなしである。当ったためしがないからだそうであるが、競馬には当った経験があるのか「競馬ほどの魅力はありませんね」という。
 いわれてみるとなるほど、宝くじで財産をすったという話を、耳にした覚えもないのである。
 白木屋入口の左側の壁際に、一人のおじさんが立っていて、宝くじの店をひろげるところである。この場所にこのおじさんが出るようになってから三年ぐらいになるそうで、その前にはおかみさんが、すぐまん前の歩道に店を出していたとのことである。ところが屋上からおばさんの真上に投身自殺をしたものがあって、それにつぶされておばさんも死亡したのだという。…

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