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虎の牙
とらのきば
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「虎の牙/透明怪人」 江戸川乱歩推理文庫、講談社
1987(昭和62)年12月8日
初出「少年」光文社、1950(昭和25)年1月号~12月号
入力者sogo
校正者大久保ゆう
公開 / 更新2017-04-14 / 2017-03-11
長さの目安約 194 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

魔法博士
 このふしぎなお話は、まず小学校六年生の天野勇一君という少年の、まわりにおこった出来事からはじまります。
 その出来事というのは、一つはたいへんゆかいな、おもしろくてたまらないようなこと、もう一つは、なんだかゾーッとするような、えたいのしれないおそろしいことでした。
 ある春の日曜日、天野勇一君は、おうちのそばの広っぱで、野球をして遊んでいました。場所は東京の世田谷区の、ある屋敷町です。広いおうちのならんだ、屋敷町に、むかしながらに森のある八幡さまのお社がのこっていて、その前に野球のできるような広っぱがあるのです。
 天野君のキリン・チームは、十八対十五で敵のカンガルー・チームを破り、一戦をおわったので、みんながひとかたまりになって、ガヤガヤとおしゃべりをしているときでした。
 ふと気がつくと、ひとりのふしぎな紳士が、勇一君のうしろに立ってニコニコ笑っていました。歳は五十ぐらいでしょうか。黒い洋服を着て、その上に、うすいラシャでできた、そでのヒラヒラする外とうをはおっています。オーバーではなくて、おとなの人が和服の上に着る外とうの、すそのほうを短くしたような形で、なんだか、大きなコウモリが、羽をヒラヒラさせているように見えるのです。
 帽子をかぶっていないので、フサフサした頭の毛がよく見えますが、それがまた、ひどくかわっていました。この紳士のかみの毛は、もえるような黄色なのです。日本人にも赤毛の人はときどきありますが、こんな黄色いのは見たこともありません。しかも、ただ黄色いのではなくて、その中に、縞のように黒い毛がまじっています。黄色と黒のだんだらぞめ。言ってみれば、虎ネコの毛なみを思いださせるようなかみの毛、それを長くのばしてうしろへなでつけてあるのですが、油をつけてないので、フワフワして、風がふくたびに、こまかくゆれ動き、陽の光をうけて、まるで黄金のようにかがやくのです。
 ふといべっこうぶちのメガネをかけ、その中に糸のようにほそい目が笑っています。ワシのように高くてだんだんになった鼻、その下に針のようにこわい口ひげが、ピンと両方にはねています。そのひげが、やっぱり黄色と黒のまだらなのです。口は大きくて、唇は紅でもぬったようにまっかです。
 みんなが、このふしぎな紳士を、ビックリして見つめていますと、紳士はポケットに入れていた右手を出して、空中に輪をかくように、大きく動かしたと思うと、いままで何もなかった、その手の中に、一たばのトランプの札があらわれました。
 紳士はその十数枚のカードを、一枚一枚、ヒラヒラと地面におとし、すっかりおとしてしまって、手の中がからっぽになると、ニヤニヤ笑って、その手で、空中に大きな輪をえがきましたが、すると、ふしぎ、ふしぎ、またしても、一たばのカードが、手の中にあらわれたのです。紳士はそれを、まえとおなじように、ヒ…

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