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怪奇四十面相
かいきよんじゅうめんそう
作品ID56673
著者江戸川 乱歩
文字遣い新字新仮名
底本 「怪奇四十面相/宇宙怪人」 江戸川乱歩推理文庫、講談社
1988(昭和63)年1月8日
初出「少年」光文社、1952(昭和27)年1月号~12月号
入力者sogo
校正者岡山勝美
公開 / 更新2016-05-13 / 2016-03-04
長さの目安約 187 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

二十面相の改名
「透明怪人」の事件で、名探偵、明智小五郎に、正体を見やぶられた怪人二十面相は、そのまま警視庁の留置場に入れられ、いちおう、とりしらべをうけたのち、未決囚として東京都内のI拘置所に、ぶちこまれてしまいました。
 二十面相といえば、これまでに、なんどとなく、牢やぶりをして、逃げだした怪物ですから、拘置所でも、とくべつの注意をして、もっとも、見はりにつごうのよい、げんじゅうな独房(ほかの人といっしょにしないで、ひとりだけ入れておく牢屋)をえらび、ふつうの見はりのほかに、ふたりの看守が、交代で、夜も昼も、たえまなく、その独房のまえに、立ちばんをすることになりました。
 なにしろ、「透明怪人」という、とほうもない大事件の犯人が、みごとにつかまり、しかも、その犯人が怪人二十面相と、わかったのですから、世間は、もう、このうわさで、もちきりです。新聞も、怪人がつかまったいきさつを、くわしく書きたてますし、人がふたりよれば、お天気のあいさつのかわりに、二十面相の話をするという、ありさまです。
 名探偵、明智小五郎の名声は、この大とり物によって、いやがうえにも高くなり、「透明怪人」をとらえた、日本のシャーロック・ホームズとして、西洋の新聞にも、明智のてがらばなしが、大きくのせられたほどです。
 この人気をあてこんで、二つの映画会社が、「透明怪人」事件の映画をつくることになりましたが、芝居のほうでも、日比谷と、浅草の二つの劇場で、「透明怪人」劇が上演されるというさわぎでした。
 ところが、二十面相が拘置所に入れられてから、五日めのことです。東京でも、いちばん読者の多い「日本新聞」に、つぎのような記事がデカデカとのせられ、世間をアッとおどろかせました。
「四十面相」と改名
  いよいよ大事業にのりだす
   拘置所内の二十面相から本紙によせた不敵の宣言
 きのう午後二時、I拘置所内の二十面相から左のような奇怪な投書が、本社編集局に配達された。I拘置所に問いあわせると、係官がすこしも知らないうちに、なにかふしぎな手段によって、この投書を郵送したことがあきらかとなった。二十面相は係官にむかって、「おれは大奇術師だ。牢屋から、だれにも知られないで、手紙をだすくらいは、あさめしまえだよ。」と、うそぶいていたという。つぎはその投書の全文である。

『わたしは明智小五郎にまけた。しかし、これで、かぶとをぬいでしまったわけではない。ちかく再挙をはかることは、もちろんだ。奇術師のわたしには、どんなあつい扉も、どんなげんじゅうな錠まえも、すこしも、やくにたたないのだ。わたしは、いつでも出たいときに、拘置所を出られる。
 しかし、そのまえに、世間に知らせておきたいことがある。それは、わたしの名まえについてだ。世間では、わたしを二十面相と呼んでいるが、わたしは大不平だ。わたしの顔は、たっ…

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