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魔法博士
まほうはかせ
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「灰色の巨人/魔法博士」 江戸川乱歩推理文庫、講談社
1988(昭和63)年3月8日
初出「少年」1956(昭和31)年1月号~12月号
入力者sogo
校正者茅宮君子
公開 / 更新2017-09-15 / 2017-08-25
長さの目安約 158 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

動く映画館
 ある夕がた、渋谷区のやしき町を、ふたりの少年が歩いていました。もとボクサーのおとうさんをもつ井上一郎君と、すこしおくびょうだけれども、あいきょうものの野呂一平君です。ふたりとも、小林芳雄少年を団長とする少年探偵団の団員なのです。
 ふたりは小学校の六年生ですが、井上君はクラスでも、いちばんからだが大きく力も強いうえに、ときどき、おとうさんにボクシングをならっているので、だれにも負けません。野呂君は井上君にくらべると、ぐっとからだが小さく、なかなかチャメスケです。ノロちゃんというあだなでとおっています。そういうふうに、からだのかっこうも、性質もちがっていますけれども、ふたりは大のなかよしでした。
「おやっ、あれ、なんだろう。へんな紙しばいだねえ。」
 ノロちゃんが、町のむこうの方に、おおぜいの子どもが集まっているのを、ゆびさしていいました。
「うん、へんだね。紙しばいじゃないよ。自転車でなくて、自動車がとまっているもの。いってみよう。」
 ふたりが、その方へ近づいていきますと、だんだんようすがわかってきました。
 それはオート三輪を、小型自動車のように作りかえたもので、その自動車のうしろの上のところに、板で四角にかこったものが出っぱっていて、そのおくに、二十インチのテレビぐらいの大きさの白いスクリーンに、何かモヤモヤと動いているのです。
「あっ、わかった。映画だよ。自動車の中から映画をうつしているんだよ。」
「そうだ。西部劇だ。カウボーイが、馬にのって走っているよ。」
 ふたりは、いそいで、見物の子どもたちの中へはいっていきました。
「いまや、トニーは、ぜったいぜつめい。ピストルをうちつくし、もうたまが一発もなくなったのであります。」
 赤と白のだんだらぞめのとんがりぼうしに、おなじ道化服をきて、顔をまっ白にぬり、ほおに赤いまるをかいた男が、しわがれ声で映画の説明をしています。この道化師が、オート三輪の小型自動車を運転して、紙しばいのように、町から町をまわっているのでしょう。
 それじゃ、子どもたちにお菓子を売っているはずだとおもって、あたりをながめますと、子どもたちは手に手に、ロケット砲弾の形をした長さ二十センチぐらいのチョコレート色のお菓子を、もっています。なかには、それをしゃぶっている子もあるのです。
「それ、なんてお菓子?」
と聞いてみますと、
「オネスト=ジョンだよ。」
と答えました。中は、あまいせんべいのようなもので、その外がわに、チョコレートがぬってあるのです。
 小型自動車の横がわを見ますと、上のほうに、映画のスチールが、がくぶちに入れて、いっぱいならべてあります。その下に、大きな字で「移動映画館」と書いてあるのです。
「そのお菓子、いくら?」
 また、聞いてみました。
「一個、十円だよ。」
と答えます。
 十円でこんなに映画が見…

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