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魔法人形
まほうにんぎょう
作品ID56682
著者江戸川 乱歩
文字遣い新字新仮名
底本 「魔法人形/サーカスの怪人」 江戸川乱歩推理文庫、講談社
1988(昭和63)年5月6日
初出「少女クラブ」1957(昭和32)年1月号~12月号
入力者sogo
校正者大久保ゆう
公開 / 更新2018-06-15 / 2018-05-27
長さの目安約 148 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

腹話術
 小学校六年生の宮本ミドリちゃんと、五年生の甲野ルミちゃんとが、学校の帰りに手をひきあって、赤坂見附の近くの公園にはいっていきました。その公園は、学校とふたりの家とのまん中ほどにある、千平方メートルぐらいの小さな公園で、みどりの林にかこまれ、三分の二は芝生、三分の一は砂場になっていて、砂場のほうには、ぶらんこやすべり台、芝生のまわりには、屋根のあるやすみ場所や、ベンチなどがあります。
 いつもは、ぶらんこやすべり台で、たくさん子どもが遊んでいるのですが、その日はどうしたわけか、ひとりも子どもの姿が見えません。芝生のほうもがらんとしてだれもいないのです。
「まあ、さびしいわねえ。きょうはどうしたんでしょう?」
 ミドリちゃんが、ふしぎそうにいいました。ミドリちゃんはからだも大きく、ふっくらした顔の色つやがよくて、快活な、しっかりした子でした。
「でも、あそこにふたりいるわ。おじいさんと、小さな子どもと……。」
 ルミちゃんが、そのほうを指さしました。
 ルミちゃんは、ミドリちゃんにくらべると、ずっと小がらで、人形のようにかわいい顔をしていました。
「あら、ほんと。あんなすみっこにいるもんだから、気がつかなかった。あのおじいさん、すばらしいひげね。」
 なんだかやさしそうなおじいさんなので、ふたりは、つい、そのほうへ近づいていきました。
 大きな木の下のベンチに、みごとな白ひげを、胸にたらしたおじいさんが、ちょこんと腰かけていました。灰色の背広をきて、小さな鳥うち帽をかぶっています。その鳥うち帽の下から、まっ白な毛がふさふさとたれ、まゆも口ひげも、長いあごひげも、みんなまっ白です。
 そのおじいさんの膝に、五つか六つぐらいの、かわいい男の子が腰かけています。その子は、あらいこうしじまの背広に、同じがらの鳥うち帽を、かぶっていました。ほおがリンゴのように赤くて、大きな黒い目をくりくり動かしています。
 ふたりの少女が、手をつないで近よってくるのを見ると、白ひげのおじいさんは、にっこり笑いました。黒いふちのめがねの中から、ほそい目が、やさしそうに光っています。
「ほら、かわいいおねえちゃんがいらっしたよ。坊や、お友だちになっていただくかい?」
 おじいさんが、ひざの上の男の子にいいました。
 すると、坊やの黒い目が、くるくると動き、赤い口が、ぱくぱくと、ひらいたり、とじたりしました。
「うん。ぼく、こっちのおねえちゃんがすきだよ。」
 かん高いきいきい声です。それにしても、この坊やの口と目は、なんて大きいのでしょう。赤いくちびるを、ぱくぱく動かすと、まるで、耳までさけるように見えます。かわいいけれども、へんな子です。
「こっちのおねえちゃんて、この子かい?」
 おじいさんが、ルミちゃんのほうを指さして見せました。
「うん、そうだよ。」
 坊やが、きいきい声で…

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