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判官三郎の正体
ほうがんさぶろうのしょうたい
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「野村胡堂探偵小説全集」 作品社
2007(平成19)年4月15日
入力者門田裕志
校正者阿部哲也
公開 / 更新2015-11-24 / 2015-09-01
長さの目安約 26 ページ(500字/頁で計算)
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本文より



「泥棒の肩を持つのは穏かではないな」
 唐船男爵は、心持その上品な顔をひそめて、やや胡麻塩になりかけた髭に、葉巻の煙を這わせました。
 日曜の午後二時、男爵邸の小客間に集った青年達は、男爵を中心に、無駄話の花を咲かせて、長閑な春の日の午後を過して居ります。
「肩を持つという訳ではありませんが、あの『判官三郎』と名乗る泥棒ばかりは憎めませんよ。第一あれは驚くべきスポーツマンで……」
 というのは、会社員の黒津武、運動家らしいキリリとした身体、勤柄で真面目な紺の背広は着て居りますが、上着一枚脱げば、何時でもラケットを握る用意が出来て居ようという、気のきいた男前です。
「というと、君自身が覘われた事でもありそうだが」
 これは宮尾敬一郎という、金持の坊ちゃんです。映画とスポーツと音楽の通で知らないものは、月給を取る方法と金を儲ける方法だけといった、典型的の有閑青年。
「僕じゃない、僕の伯父がやられたんだ」
「君の伯父さん? ……成る程、君の伯父さんというと、富豪の筒井氏だネ、何んでも避雷針を伝わって空気抜から入って、抵当に預った曲玉や管玉や、素晴らしい古代の宝玉を苦もなく奪われたというではないか」
「それだよ、伯父の悪口をいっちゃすまないが、世間から『地獄の筒井』といわれる位だから、伯父のやり口も充分悪かった」
「あの古代の宝玉というのは、有名な蒐集家の遺族から預って、金を返す期限が二三日遅れたというので、涙を流して頼みこむ預け主へ、どうしても返さずに居た品物だというじゃないか」
「その通り、残念乍ら僕も伯父の弁護だけは出来ないよ、義賊気取りの判官三郎に覘われたのも無理は無いさ」
「マア黒津さん、そんなに伯父さんの悪口を仰しゃるものじゃありませんワ」
 後ろの方から、洗練された美しい声、振り返って見ると、次の間に通ずる扉を背にして、オパール色の洋服を着た、目の覚めるような美しい娘が立って居ります。
「オ、栄子さん、丁度いいところへ」
 青年達は、腰を浮かして、この美しい人を迎えました。唐船男爵の一粒種で、才色兼備の見本のような令嬢、毎月変った姿態の写真が、二枚や三枚は、婦人雑誌へ出ない事が無いという、一代の人気を背負って立ったような令嬢です。
「黒津君が伯父さんの悪口をいうのは、存分にお小遣が貰えないからなんですよ……」
「マア」
「コラ何を人聞の悪い事をいう、君のようなノラクラ者と違って、これでも独立独歩の月給取だぞ、お小遣に困るようなサモしいんじゃない」
「ハッハッハッ、まあ怒るな。ところで英子さん、今ここで、判官三郎の噂をして居たんですが、あなたはどうお思いになります?」
「まあ素的ネ」
「判官三郎を憎んだものだろうか、それとも讃美したものだろうかと言うのです」
「憎むところなんかありませんワ。判官三郎は神出鬼没の怪盗ですけれど、意地の悪いことや、残酷…

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