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黒い月の世界
くろいつきのせかい
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「中谷宇吉郎紀行集 アラスカの氷河」 岩波文庫、岩波書店
2002(平成14)年12月13日
初出「文藝春秋」1957(昭和32)年8月
入力者門田裕志
校正者川山隆
公開 / 更新2015-06-29 / 2015-07-28
長さの目安約 64 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

地球創成の面影

 遠い遠い昔のこと、もちろん人間などまだ地球上に現れなかった時代、おそらく数千万年もの大昔に、太平洋の深海の底に、大きい亀裂がはいった。
 その亀裂は、現在のハワイ群島の東方に始まり、それからずっと西方に伸びて、ミッドウェイ島を通り、日本の南方近くにまで達した。そしてその亀裂に沿って、海底のずっと下にある熔岩が、ところどころから噴き出してきた。
 これらは深海の底にできた火山であって、噴火の時は、もの凄い景観を呈したことであろう。ハワイの付近は、現在は約二万フィートの深海である。この二万フィートの海の底から、千数百度の熔岩が、恐ろしい勢いで噴き出してくる。大洋の水は、沸き立って、水蒸気はもうもうと天空を蔽い、熔岩のしぶきが真赤にその中を彩ったことであろう。まさに天地晦冥の大景観であったにちがいない。原子爆弾の水底爆発など、これと比べては、玩具のようなものである。
 こういう海底噴火は、現地質時代でも時々発生するので、先年の明神礁の噴火などが、その良い例である。しかしこの種の海底火山は、たいていの場合、すぐ島の生成にまでは発展しない。明神礁の時もそうであったが、あのものすさまじい噴煙と水柱との蔭に、間もなく黒い岩礁が少しばかり海面から頭を出したのも束の間、やがて噴火がおさまると、この岩礁もまた間もなく水面から姿を没してしまった。
 今日のハワイ群島は、大小数十の島から成り、そのうちの比較的大きいものだけでも、八つの島がある。これらの群島は、いずれも太平洋の底にできた地殻の割れ目に沿って、噴火してきたものであるが、一気に島ができたのではない。数千万年か数百万年かの長い年代にわたって、何回もの海底噴火があり、水面下でなんべんも起伏をくり返しながら、やがて海面にその姿を現わしてきたのである。そしてたくさんあるハワイの火山の中には、現在でも、この地球創成の面影を残している火山がある。それはハワイ島にあるマウナ・ロア火山である。
 ハワイといえば、すぐホノルルと思われやすいが、ホノルルのあるのは、オアフ島であって、これは群島中第三位の大きさの島である。もっともこのオアフ島は、真珠湾のある島であって、われわれには、因縁の深いところである。
[#挿絵]
 群島の主な島は、オアフ島よりも東方にあって、その一番東にあるハワイ島が、とりわけ大きい島である。四国の三分の二くらいの広さで、ここにマウナ・ロアとマウナ・ケアという二つの火山がある。両方とも約一万三千七百フィートあって、ほとんど同じ高さである。ハワイに、富士山よりも一千フィート以上も高い山があるというと、ちょっと驚く人が多い。緯度は台湾の南部くらい、熱帯に属しているが、この高山の頂では冬になると、雪が降る。普通の年は、一冬に四、五回雪が降るので、その雪を調べるために、昨年の十二月から、今年の一月にかけて、…

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