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ウィネッカの秋
ウィネッカのあき
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「中谷宇吉郎紀行集 アラスカの氷河」 岩波文庫、岩波書店
2002(平成14)年12月13日
初出「知られざるアメリカ」文藝春秋新社、1955(昭和30)年
入力者門田裕志
校正者雪森
公開 / 更新2015-09-17 / 2015-05-25
長さの目安約 9 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 シカゴの街は、大陸の真中にあるので、寒暑の差がいちじるしい。夏は華氏の百度を突破することがしばしばあり、冬はまた摂氏零下二十度、あるいはそれ以下になることも時々ある。しかしアメリカとしては、それでもまだ気候がそう悪い方ではない。それはミシガン湖に面しているからである。
 ミシガン湖は、日本の本州の半分くらいもある広い湖で、湖というよりも、海といった方がいいくらいの感じである。このミシガン湖を渡って、よく加奈陀の方から、寒い気塊が襲来してくる。それと南方のメキシコ湾から押し上ってくる暖かい気塊とが、交代にやってくるので、その都度気候が激変する。
 そういう変化は、数時間のうちに、華氏で三十度も気温が下るというような急激なものから、一週間交代くらいで天気がすっかり変るという比較的緩慢な変化までいろいろある。毎日の新聞の天気図には、これらの気塊の動きが分りやすく描いてあるので、それを見ていると、こういう変化がよく分って、なかなか面白い。
 四季のうつりかわりにも、この特徴があらわれていて、日本のように、秋から冬という風に、順当にはいかない。すでに十月のなかばに、初雪があった。朝起きてみたら、屋根も地面も真白になっていたので、すっかり驚いてしまった。まだ冬の仕度がちっとも出来ていないので、少しあわてたが、そのつぎの日から、また暖かくなって、東京の十一月のようないい天気が毎日つづいている。これから「インディアンの夏」という暑い時期が一、二週間やってきて、それから本式の冬になるのだそうである。このあたりでは、大陸的な気候の特徴として、秋が短い。しかしその短い秋を彩る木々の葉の色は、限りなく美しい。
 シカゴは商工業ともに殷賑をきわめているひどく汚い街である。煖房としては、無煙炭しか焚いてはいけない規則になっているのだそうであるが、どの建物もひどく煤け、道路もかなり乱雑である。しかし郊外には、いい住宅地がたくさんあって、そういうところには、樹木が多く、日本の秋の美しさを偲ばせる風趣が十分にある。
 この附近はどこまでも全くの平らな土地であって、五、六十年前までは、原始林であったところを拓いたのだそうである。樹木はその頃の立木を残したもので、亭々とした樫だの柏だのエルムなどが、家々の屋根をおおって聳え立っている。それで、この附近では、まるで林の中で生活しているような恰好である。
 ほとんど全部闊葉樹であって、たいていは一かかえから二かかえ近い大木である。背の高いアメリカの三階建の家よりも、もっと高いところまで梢が美事に繁っている。道路はどこもだいたい真直になっていて、磨き立てたような鋪装の両側に、芝生がある。立木はこの芝生の中に残されているので、道路を縦から見ると、両側の大木の柱が、双方から空をおおって、緑の天蓋がずっとつづいている。
 この芝生の中に、歩道がある。これは…

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