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符牒の語源
ふちょうのごげん
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「日本の名随筆70 語」 作品社
1988(昭和63)年8月25日
入力者門田裕志
校正者noriko saito
公開 / 更新2015-01-01 / 2015-01-07
長さの目安約 13 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 何商売にも隠し言葉、隠語、俗に符牒というものがある。この符牒にも通り符牒と内符牒とがあって、通り符牒は同商売であればどこへ行っても通用するが、内符牒というのはその家だけの符牒だから、同商売でもほかの家の者がきいたのではわからない。
 すべての符牒に上品なものは少ない。
 われわれ咄家も昔はずいぶん符牒を使ったものだ。見習から前座になるまで、この楽屋符牒を覚えるのに苦労したものだ。またこの符牒を全部知っていないと一人前の前座といえなかったが、この頃では楽屋でもあまり使わなくなった。現在の若い咄家はほとんど使わないといっていい。実に結構なことである。
 あらためて記録に残しておくほどのものでもないが、言葉を商売としている咄家で、その語源を調べてみるのも面白いと思った。咄家の符牒が、いつから使い始めて、誰が考えだしたか正確なことはわからない。なかにはまたあらかた想像のつくことばもある。昔は客のいる前であまり不躾な話もできないというので小さな声で喋ったのであろうが、これを客が聞くとなおさらいやなものだ。昔でもギボシのうちの芸人(正確に落話組合、柳派とか三遊派へ登録している人。つまり誰の内輪の芸人と決まっている人)はあまり使わなかったが、土手組(組合以外の芸人。昔、町火消の数に入らない人足のことを土手組といった。これからでた言葉であろう)とか端席の芸人、今のことばでセミプロ級の半商売人が多く使ったものである。
「今夜はスイバレだからキンチャンカマルよ」
 雨のことが水で「スイ」、降ることを「バレル」、「キンチャン」は金を持ってくるので客のこと、「カマル」は加えるで客が多くくる。
 寄席の打ちだし、終いも「はねた」といわない。
「何時にバレた」
 助平の話も「バレ話」。何か隠していることがあらわれても「さてはバレたかな」なぞという。もとは「破れる」と書いたらしい。
 よいことを「ハクイ」、悪いことが「セコイ」。便所へ行くのを「セコバラシ」に行く。よいお客は、「ハクイキンチャン」。顔のことは「トオスケ」。「あのタレはハクイトオスケだ」つまり美しい顔の女。
 この頃では、中学、高校の若い女の子までが符牒を使っている。先生のことは「センチ」。女のことを「スケ」。悪い顔を「ブス」、これも不様のスケをつめてブス。
 デパートの女店員は皆符牒を使う。
 各デパートによって違うが、客商売でお客にわかっては都合の悪い言葉がある。トイレのことを、「スケンヤ」「ニノジ」「サンサン」。または「エンポウ」へ行ってきます。
 お客様は「ゼンシュウ」「お成り」。綺麗な人がくると「チューさんがきた」
 これは注意を引くというのからでたものらしい。
 食事は「ノの字」「八の字」「ギョク」「キザ」ともいう。
「キザへ行ってくるわ」
 このキザは昔駕屋さんが腹の減ったときの符牒で「喜左衛門」の略。この小…

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