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昔の言葉と悪口
むかしのことばとわるくち
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「日本の名随筆52 話」 作品社
1987(昭和62)年2月25日
入力者門田裕志
校正者noriko saito
公開 / 更新2015-02-20 / 2015-01-16
長さの目安約 7 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 現在、各大学に落語研究会というものがあり、中学・高校の教科書にも江戸小咄がのっている。近頃落語の寄席へ若いお客が多くくるようになった。誠に喜ばしいことだ。ぼくは一般のお客から「落語はどういうところがお好きでおいでになりますか」とアンケートの投書をいただいた。そのなかに「昔の言葉が覚えられるから」というのが多くあった。
 われわれ商売人の若い咄家が聞いてもすでにわからなくなった言葉がある。土地の名前もわれわれはうっかり昔の町名をいって自動車の運ちゃんに聞きかえされる。
「妻恋坂」「湯島大根畑」「切り通し」。万世橋から上野までが「御成街道」。「筋違」「講武所」。現万世橋が「眼鏡橋」。「御隠殿」「喰違」「鉄砲洲」「お玉ヶ池」「新堀端」「大根河岸」「竹河岸」「白魚河岸」「竈河岸」。「ヤッチャ場」も「青果市場」と改名した。
 ついうっかり「二足三文だよ」といってしまう。これも下駄の鼻緒が二足分三文で買えた時代の言葉であるから、今は通用しないがついうっかり喋ってしまう。ためしに古い咄家が高座で使っている昔のことばを調べてみた。
「俺がいおうと思っていたがお株をとられてしまった」(先にやられて)
「いかなこっても」(何がなんでも)
「権助の話は裏がかえらねえ」(二度目にやることができない)
 権助とは何ですかと聞きかえされて、作男で台所で働いている男だ。台所とは何です、勝手、といってやっとわかった。
 昔の悪口には面白いのがずいぶんある。
 今は恐妻家、女天下というが、昔は「からすの昆布巻」(かかあまかれだ)
「ずいぶん歩いたがまだよほど遠方なのかね」
「なーに、台屋のお鉢だ」(じき底、すぐ底)
 吉原の料理屋からとる飯櫃は上げ底になっていた。いちいち説明をつけると長くなるが、現代人にはぴったりこない。
「怠け者の節句働き」
 五節句といって、一年に節句と名のついた休日が五つあった。一月、三月、五月、七月、九月である。三月三日の上巳と五月五日の端午は誰でも知っているが、現在休日は五月五日の子供の日だけになった。
 相撲も四股名のつくまでは苗字だの入門した月日で呼びだされる。行司が、
「片や三月二日、こなた五月の四日、互いに見合ってセックマイセックマイ」
 昔、この五節句に仕事をしているような者は、不断は「引窓の紐」(くすぶってブラブラしている)といった。現在では引窓という物がなくなった。
 都内を歩き廻って見ても鯉幟りなぞ少なくなった。我々子供時分は三間、五間という長さの鯉幟りと吹き流しを自慢で屋根へ上げた。真鯉という黒い鯉の下へ緋鯉を追掛け鯉として必ず上げた。

江戸っ子は五月の鯉の吹き流し
     口先ばかりで腹わたはなし

 実にうまい表現だ。
 少し意気ごんで喋ると、
「五月の空じゃあるめえし、そう大きな声をだすない」
 なぞといわれる。
「竹屋の火事みたいに…

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