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東京青年
とうきょうせいねん
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「東京青年」 角川文庫、角川書店
2002(平成14)年4月25日
入力者八巻美恵
校正者高橋雅康
公開 / 更新2015-07-07 / 2015-07-01
長さの目安約 298 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

[#ページの左右中央]


名前は仮にスーザン



[#改ページ]



 ヨシオは私立の高校に通う三年生だ。彼のいるクラスの人数は男女十二名ずつで、合計二十四名だ。十二名の女性のなかに美人がふたりいる。特別の教科以外はいつもおなじ教室だ。その教室の、右端の列の前から三番めの席に美人がひとりいる。もうひとりは、中央からひとつだけ左に寄った席の、うしろからふたつめの席にすわっている。
 本来ならヨシオの席はいちばん窓側のうしろから二番めだ。彼は右隣りの人と席を代わってもらった。だから彼の席は美人の左隣りだ。授業中、ふと、彼はその美人を見る。頭のかたちのいい、したがって彫りの効いた、すっきりとまとまった横顔をしている彼女は、端正な雰囲気の常にある理知的な美人だ。冷たい、と多くの人は彼女を評した。しかし、印象は冷たくても美人であることになんら変わりはなかった。身のこなしは常に静かで、凛とした声でよく質問した。
 自分は美人が好きだということを、ヨシオはよく自覚していた。ごく幼い頃からそうだったと両親から聞かされていたし、彼自身で記憶している幼児体験のなかには、美人が大きな場所を占めていた。まだ小学校に入る前、幼いヨシオはひとりで駅まで歩いていき、改札口の前に立ち、出入りする人を観察する。美人がとおりかかるとヨシオは彼女に歩み寄り、「お姉さんどこへいくの?」と、彼女を見上げて聞く。「お家へ帰るのよ」とその女性が答えると、「僕もいく」とヨシオは言い、彼女についていく。当時のヨシオはまだたいへんに可愛く、連れていかれたまま夜になっても帰って来ないということが何度もあった。自宅を訪ねて来た人が美人だと、その人が帰るとき、「僕も帰る」と言い張るのがヨシオの常だった。
 クラスにいる十二名の女性のうち、ふたりが美人。まあいいか、というのがヨシオの結論だ。授業はつまらなかった。おそらく誰にとってもそうだろう。つまらないなあと思うとき、彼は右隣りの美人、日比谷優子を見る。なぜだか理由はわからないが、気持ちを集中させ、たいへん熱心に優子は先生の語ることを聞いている。不思議だ、とヨシオは思う。この若い美人はいまいったいなにを思っているのか。まったく見当もつかないところが不思議、つまりヨシオにとっては面白いのであり、だから彼は近い距離から彼女をときどき見るだけで充分に満足だった。おなじクラスでしかも隣りどうしの席なのだから、親しく会話を交わすことは常にあった。しかしそれ以上のことを、ヨシオは望んではいなかった。
 ヨシオが通っているその私立高校には、校内に売店がいくつかあった。書店、文房具店、スポーツ用品店、時計店、それにパンや飲み物を売る店などだ。五月のある日、パン店の店員が、それまでのきわめておとなしい青年から、女性に代わった。ヨシオはそのパン店の常連だった。毎日のようにそこで…

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