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パリの散策
パリのさんさく
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「日本の名随筆 別巻23 広告」 作品社
1993(平成5)年1月25日
入力者門田裕志
校正者noriko saito
公開 / 更新2015-02-25 / 2015-01-28
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 凡そ都らしい都といえば、先ずパリとウィーンだろう。小都会なら、ニュルンベルグもリュツェルンも面白く、ブリュージュにもヴェネチアにも、惚れ惚れするような、独得の旨味があるが、真に一国の首府としての美観と情味とを兼ね備えた大都会は、何といっても、パリとウィーン、これが両大関のように思われる。
 一昔前、地震学の石本巳四雄君と二人で、屡々パリの街を、あてもなく、さすらいながら、「パリという都は、大した都だなあ!」「全くだね、作りあげたと云うよりも、自然に出来あがったという感じだね。急に拵えたんでは、この、しっとりとした味は出せない。」と二人で、感心したものだ。全くパリの美は都市美ではあるが、フランス人の高い趣味と時代の力とに依って、一個の自然美、ペイザージュになっている。
 都市美の第一の要素は調和に在る。その都会の自然と人工との調和でもあり、その街の形式と住民の生活との調和でもある。震災後の東京は漸次に近代都市の面影を加えてはいくようだが、未だ未だ東京市街と住民との生活の間にはパリに於けるが如きアルモニーがない。
 一体、都市は自然の地域に人間の意志を以て建立するものなのだが、あまりに意志の目立つ都は情操の自らなる発露を妨げて、たまたまその都を訪れる客に何となくとげとげしい感じを与えるものである。僕は嘗てベルリンで、そういうぎごち無さを体験した。ベルリンには、一体に、パリに負けるものか、ロンドンに負けるものか、と反抗的プロシア精神が漲っていて、客を慰和する趣きが著しく欠けている。ローマという都が、やっぱり、ひどく力んだところがあって優雅な趣きがない。
 総じて、勃興の途を歩む国の都は何処となく浅薄な凄じさがあって、人を落ちつかせない。寧ろ、文化が一定の限度に達してしまって、既に頽廃期に入った国の都の方が如何にもしっとりとして懐しくもある。だから、僕等はニューヨークの殷賑を想像しながら無数の摩天閣の聳ゆる市街を眺めても、近代主義の墓地のようで、石塔や塔婆の林立する墓所を観ているようにも思えるのである。寧ろ、ほんものの墓地の方が遥かに審美的には活きていて、ニューヨークの方が死んでいる。

 パリのパンテオンの裏の方にコントル・スカルプという汚らしい辻がある。辻の中央には共同便所があり、一軒の珈琲店があるきりで、周囲の細民の家屋で取りまかれている。夏などはこの狭い辻が小便臭くて、ひどく不潔な感じがするが、それでいて、やっぱり絵になる辻なのだ。夕方、下宿に帰る途すがらこの辻を横ぎると、少し傾きかけた、古く黒ずんだ壁面に赤い斜陽がさして、何とも言えない色彩を染め出している。そぞろにユトリロの絵を想い起させるほどである。
 グラン・ブールヴァールの大通りを歩いていると、いつもラファエロの絵が目に浮んで来る。ルーヴル博物館からチュイルリー宮、コンコルドの広場、シャンゼリゼの…

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