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槍ガ岳
やりがたけ
作品ID56896
副題(北鎌尾根)
(きたかまおね)
著者松濤 明
文字遣い新字新仮名
底本 「新編 風雪のビヴァーク」 山と溪谷社
2000(平成12)年3月20日
初出「私家版 風説のビヴァーク」1950(昭和25)年1月6日
入力者岡山勝美
校正者雪森
公開 / 更新2015-03-16 / 2015-02-28
長さの目安約 14 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

荷上げ



昭和二十三年十二月十二日
 五時松本着、ただちに島々へ行き、西糸屋にて干飯、餅各三升依頼。米を若干買入れて大町へ向う。大町では葛行バスの終車に乗り遅れ、「山七」旅館に泊る。素泊りで一一〇円。暇つぶしに湯俣温泉小屋持主を訪ね、天上沢の路が予想外に良いことを聞き安心する。大町で見たところでは、雪は少なく、スキーを持った格好は良くない。

十二月十三日
 八時のバスで葛入り、高瀬館にスキーを預け、九貫の荷を背負って湯俣へ向う。葛から雪路で、ツルツルで歩き難い。
葛(九・一〇〜一〇・二〇)―七倉沢(一〇・五〇〜一〇・五五)―神ノ沢吊橋(一一・五〇〜一二・〇〇)―三ノ沢吊橋(一二・三〇〜一二・四〇)―濁(一三・〇五〜一三・一五)―第五発電所(一四・〇五〜一四・一五)―湯俣取入口(一七・〇〇)

 七倉沢少し下の営林署合宿迄トラックの轍あり、それより上も馬軌道が第五まで行っている。しかし雪は少なく輪かんも要らなかった。湯俣のおやじさんは登歩渓流会のことを覚えていて、思い出話に花が咲いた。われわれに対する印象は非常に良いらしい。気温〈−2℃\22時〉

十二月十四日 小雪後雨
湯俣(八・四五)―中東沢(一〇・〇〇〜一〇・二〇)―マチバ吊橋(一二・一五〜一二・三〇)―マチバ(一二・五〇〜一二・五五)―天上岩小屋(一三・〇〇〜一三・一五)―第三吊橋上まで偵察―岩小屋(一四・三〇)―第三吊橋(一四・五五)―P2(一六・二〇〜一六・二五)―第三吊橋(一七・一〇)―岩小屋(一七・二五)

 湯俣の親父さんの話では、天上沢の路は案外はかどりそうで、この分ではP2まで荷を上げて帰京できると見当をつける。P2まで行ければテントを張って荷を入れねばならないが、拙いことに支柱を持って来ていない。岩小屋も半分水につかって使用出来ないから、第三吊橋付近に小屋掛けしなければなるまいとの話に、ついでにP2にも小屋掛けしようと決めて鋸、針金など貰って出発。荷は約七貰、アイゼンを履き中東沢出合より輪かんを付ける。脛くらいの潜り方。中東沢を対岸に見る少し下に沢が入り、その出合付近が悪い。三番目の大きい沢の所から大高捲き(高さ一〇〇メートル位)の新道がついていた。マチバの下の吊橋は橋桁が少し落ちて飛んでいたが、水俣入口の吊橋よりむしろ良かった。三番目の沢付近からアラレが降り始め、やがてミゾレになった。岩小屋は水につかってなくて先ず安心。荷を置いて第三吊橋上の小屋掛け予定地まで行ってみたが、あまり良い場所でないので、岩小屋を使うことにする。時間が多少あるので食事後ザイル、三ツ道具、小屋掛け資材だけ持ってP2へ向う。ミゾレで身体がぐっしょり濡れる。雪もくさって感じが悪い。
 P2の側稜を直登して、P2まで一時間半で行けた。ラッセルは深くて膝まで。ただし上部に垂直近い悪場があり、先年五月には左をから…

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