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きのふは嵐けふは晴天
きのうはあらしきょうはせいてん
作品ID56919
著者小熊 秀雄
文字遣い新字旧仮名
底本 「新版・小熊秀雄全集第一巻」 創樹社
1990(平成2)年11月15日
初出「新劇人」1936(昭和11)年4月
入力者八巻美恵
校正者浜野智
公開 / 更新1999-06-18 / 2014-09-17
長さの目安約 14 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

舞台 周囲が岩石ばかりの大谿谷の底を想像させる所、極度に晴れ渡つた早春の朝、遠くから太鼓のにぶい音と、タンバリンの低い音が断続的に聞えてくる、舞台ボンヤリとして何か間のぬけた感。
○いざり一、(空虚な舞台へ這ひ出てくる、舞台の中央でものうく、哀調を帯びて、間ののびた声で)右や左の旦那さま、(急速に)世界の果ての、(真に迫つて)果ての果ての、果てにいたるまでの旦那さま方
○いざり二、(ものうく、哀調を帯びて)右や左の奥様がた(急速に)世界の奥の、(真に迫つて)奥の、奥の、奥にいたるまでの奥さま方、
○いざり一、(天を仰いで)この晴れ渡つた空、心もはればれする日に、わたしの足腰が立たないとは(同情を乞ふ調子で)どうぞ皆様、御同情下さい(米搗バッタのやうに頭を下げる)
(青年合唱隊の太鼓の音、次第に高く、きこえてくる)(元気に、軽快に、隊を組んで行進)
(婦人合唱隊の、タンバリンの音きこえてくる)(女達は柔和で、リズミカルな動作、女性的に快活に、隊を組んで行進)
○合唱青年、(力強く)我々は足にまかせて、都会、山野あらゆるところを(間)行進する(急速に)人生の早足隊だ。
○合唱婦人、(優しく)私達は、静かに、(間)男達の仕事を見守る(急速に)人生の監視隊だ。
○合唱青年、(笑ひの合唱)ワ、ハ、ハ、ハ、(皮肉に)婦人達が我々の監視隊、それは良いことだ。
○青年一、(皮肉に)そして(徐ろに間ををいて)主として縫ひもの、つくろひものを、家庭にあつては、分担してをりますか(笑)
○青年二、それも必要だ、(高く)人生のほころびの縫ひ手は、(確信的に)彼女達だ。
○青年一、(激しく皮肉に)男が破つて、女が繕ふのか。
○合唱青年、(急速に叫ぶ)我々は力の象徴だ、打て、打て、打て、打て、太鼓を(太鼓乱打)音響をもつて空を引き破れ、あらゆるものを、ほころばせ、冬の雲を春の光りが、(歓喜をもつて)強く引裂くやうに。
○合唱婦人、(優しく)ダイナモのやうに、いつも元気の良い、青年達よ、(愛撫的に)よく磨いた鎌のやうな、聡明な若者たちよ。
○婦人一、あなたたちは女性の緩慢な愛にも堪へてゐる、忍耐強い友(激情的に)打て、打て(タンバリン乱打)情緒の金の針で、あなた達の心のほころびを私達が縫つてあげませう。
○いざり一、(大声に、そしてゆつくりと)右や左の旦那さま、奥様方、御騒々しいことでござります。(感動的に)皆さま方はお親しい、仲の良いことでございます。(青年に向つて)旦那さまがた。(急速に)すべてを裂け、(自問自答的にうなづきながら)ウム、すべてを破れ、だがお前さん達はこれまで、(間)女達の手に余るほどの、(間)大きな、ほころびをつくりだした、ためしがありますまい、口幅つたいことは、慎んでもらひませう、全世界の御婦人の、名誉の下に――
婦人四、(歓喜して)ほんとうに、いざりさん貴方の言…

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