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五月の雉
ごがつのきじ
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「近代浪漫派文庫 29 大木惇夫 蔵原伸二郎」 新学社
2005(平成17)年10月12日
初出風の中で歌う空つぽの子守唄「詩学」1955(昭和30)年1月号
入力者kompass
校正者大久保ゆう
公開 / 更新2016-03-20 / 2016-01-01
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

五月の雉

風の旅びとがこつそり尾根道を通る
ここはしずかな山の斜面
一匹の雌きじが 卵を抱いている
青いハンカチのように
夕明かりの中を よぎる蝶
谷間をくだる せせらぎの音
ふきやもぐさの匂いが
天に匂う
(どこからも鉄砲の音などきこえはしない)

一番高い山の端に陽がおちる
乳いろのもやが谷々からのぼつてくる
やがて、うす化粧した娘のような新月が
もやの中からゆつくりと顔を出す
――今晩は、きじのおばさん――
平和な時間がすぎてゆく
きじの腹の下で最初の卵がかえる
月かげにぬれてひよこがよろめく
親きじがやさしくそれをひきよせる
(どこからも鉄砲の音などきこえはしない)


ひよどり

がつこうの かえりみちだよ
ピーヨ
ピーヨ
ひよどりが ないているよ

大きな竹やぶから
青い空が すんでみえるよ

みよちやんと ぼくが
ひよどりの まねをしたら
こんどは ひよどりが
ぼくらの まねをしているよ
ピーヨ
ピーヨ
なんてんのみが まつかだよ


分校に行く道

そこにはいつも
新しい太陽が立ちどまつている
秋の山みち
そこでは
すすきが雲に呼びかけ
音もなく赤土の崖がくずれ
風が石ころをころがしている道
この道は
岩山をいくつも越えてゆく道
太陽がしばらく立ちどまつて
遊んでくれるみち
遠い分校にゆく道


孫娘とふたりで

あかるすぎる九月の夕暮
だれもいない丘の石に
二人はこしかけていた
ぼくが何を考えているかも
しらない孫娘は
はしやいだ声でいつた
「おじいちやんの髪の毛 雲みたい」
その時 ぼくは ばくぜんと
「死」について考えていたのだ

なるほど 丘のむこう
暮れなずむ とき色の空に
白髪のような雲がひとかたまり
光つていた


動物園にて

「おじいちやんは いまごろ
 どこらへんを歩いているんだろうな、
 もう死んでいるのかなあ」
と、遠くにいる四歳の孫娘が考えた時
その時
じいさんはばあさんと
二十年ぶりに動物園に行つて
ゴリラの檻の前に立つていた
「ほら ばあさんや、
 ゴリラという奴は、何かやる前に
 ちやんとやり方を考えるね。えらい奴じや
 のう」
「まあ、ほんとにそうですね。あなたより
 よつぽどえらいようだよ」
二人はとぼとぼと手を振りあつて
満開の桜の花の下をあるいていつた


風の中で歌う空つぽの子守唄

今日は日曜日
田舎の小学校の庭は
ひつそりしている
窓々に子供たちの
明かるい顔も見えない

ふく風の中で
お前はおじいちやんの腕に抱かれている
お前の祖父は干乾びた山椒魚のようだ
二つの腕の間を風ばかりが吹き過ぎてゆく

万里子よ
お前は風の中ですやすやと眠つている
お前の頬には
樹蔭のみどりと薔薇色がゆれている
千の光がお前のあどけない唇で唄つている
乳の匂いのするお前のやわらかい肢体は
虚無に浮いている地球と同じ…

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