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書簡 大杉栄宛
しょかん おおすぎさかえあて
副題(一九一六年五月七日 二信)
(せんきゅうひゃくじゅうろくねんごがつなのか にしん)
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「定本 伊藤野枝全集 第二巻 評論・随筆・書簡1――『青鞜』の時代」 學藝書林
2000(平成12)年5月31日
入力者酒井裕二
校正者雪森
公開 / 更新2016-01-31 / 2016-01-04
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

宛先 東京市麹町区三番町六四 第一福四萬館
発信地 千葉県夷隅郡御宿 上野屋旅館


 今朝あなたへの手紙を出して仕舞ふと直ぐに仕事にかかるつもりで居りましたが、何んだかグルーミーな気持になつて仕舞つて、机の前に座るのがいやで仕方がありませんので、障子を開けてあすこから麦の穂を眺めながら、あなたの事ばかり考へて、五六本煙草を吸つて仕舞ふまで立つてゐました。ひどい風で、海岸から砂が煙のやうに飛んで来るのが見えるやうなのです。
 こちらでも、あなたの評判がまた馬鹿にいいんですよ。そんないやな処にゐないで、早くいらつしやい、こちらに。お迎へにゆきませうね。あなたが私と直ぐにゐらつしやるおつもりなら、土曜日の昼頃そちらに着くようにゆきませう。そして日曜の、あなたのフランス語がすんだら直ぐに五時のでこちらに来るようにしては如何です。それまでには、私の方でも少しはお金の都合は出来ると思ひます。さうしませうね。大阪の新聞の方、神近さんの名をそのままに書きましたよ。社の方で差支へがあれば頭字にでも直すようにしませう。
 保子さんには、もう少し理解が出来るようにはお話しになれませんか。私は何を云はれてもかまひませんが、もう少しあなたと云ふ事をお考へになれないでせうか。私には、何んだかもつとあなたがよくお話しになれば、お分りにならない方ではないやうな気がします。けれど、あなたは保子さんによくお話しをなさる事を、面倒がつてゐらつしやるのではありませんか、もしさうなら、私は出来るだけもつと丁寧にあなたがお話しになるようにお願ひします。どうでもいいと云ふやうな態度はお止しになつた方がよくはありませんか。勿論、私はまだ何にもあなたにそんな事はお聞きしませんから分りませんけれど。さうでなければそれ以上仕方はありませんが、あなたが神近さんに対して、また私に対して、さしのべて下さつたと同じ手を、保子さんにもおのばしになる事を望みます。
 私は神近さんに対しては、相当の尊敬も愛も持ち得ると信じます。同じ親しみを保子さんにも持ちたいと思ひます。保子さんは私に会つて下さらないでせうか。私は何んだか頻りに会ひたい気がします。あなたの一昨日のお話しのやうに、触れる処まで触れて見たい気がします。私も保子さんを知りませんし、保子さんも多分よく私と云ふものを御存じではないだらうと思ひます。触れるところまで触れて、それでも私の真実が分らなければ仕方がありませんけれど、知らないでゐるのは少し不満足な気がします。尤も、保子さんが私に持つてゐらつしやるプレジユデイスは可なり根深いものであるかも知れませんけれども、この私のシンセリテイとそれとが、どちらが力強いものであるかを見たい気も致します。若し保子さんがお許し下さるなら、私は今度お目に懸りたいと思ひます。
 けれどもまた、若しその結果が保子さんに大変な傷を与へるや…

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