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書簡 大杉栄宛
しょかん おおすぎさかえあて
作品ID57006
副題(一九一六年五月二日)
(せんきゅうひゃくじゅうろくねんごがつふつか)
著者伊藤 野枝
文字遣い新字旧仮名
底本 「定本 伊藤野枝全集 第二巻 評論・随筆・書簡1――『青鞜』の時代」 學藝書林
2000(平成12)年5月31日
入力者酒井裕二
校正者雪森
公開 / 更新2016-01-21 / 2016-01-04
長さの目安約 3 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


宛先 東京市麹町区三番町六四 第一福四萬館
発信地 千葉県夷隅郡御宿 上野屋旅館


 会ひたくない人に無理に会はなくてもよろしうございます。何卒御随意になさいまし。一生会はなくつたつて、まさか死にもしないでせうからねえ。そんな人に来て頂かなくても、私一人で結構です。何故あなたはそんな意地悪なのでせう。
 今ここまで書いて、あなたの第二のお手紙が来ました。宮島(資夫)さんのハガキと一緒に。会ひたい会ひたい、と云ふ私の気持がなぜそんなにあなたに響かないでせう。今日は、朝から私は気が狂ひさうです。昨日も一日、焦れて焦れて暮しました。蓄音機をかけて見ても、三味線をひいて見ても、歌つて見ても、何の感興もおこつては来ません。だん/\にさびしくなつて来るばかりです。煩くなつて来るばかりです。あなたの事ばつかりしか考へられません。他の事はとても頭の中にぢつとしてはゐないのですもの。私だつて、あなたがたやすくゐらつしやれない事だつて知つてゐるんですけれども、それだからつて、だまつてはゐられないんですもの。それにあなたは、あんな意地悪を云つては私を泣かして、それでいいんですか。
 さつき郵便局までゆきましたら、東京と通話が出来るんです。うれしいと思つてかけようと思ひましたら、他の人が今かけて出るのを待つてゐるんだと云ひますので、なか/\駄目らしいのでよしました。明後日の朝かけますからお宅にゐらして頂だいな。五分でも十分でも、こんなに離れてゐてお話が出来るんだと思ふとうれしいわ。それをたのしみにして、今日とあしたを待ちますわ。
 神近さんは何んだかお気の毒な気がしますね。でも、それが彼の方の為めにいいと云ふのならお気の毒と云ふのは失礼かもしれませんのね。でも、本当にえらいのね。其処まで進んでゐらつしやれば、でも、もう大丈夫でせうね。あなたと神近さんの為めにお喜びを申しあげます。
 さつき、あんまりいやな気持ですから、ウヰスキイを買はせて飲んでゐるんです。だん/\に変な気持になつて来ます。あさつてはあなたの声がきけるのね。何を話しませうね。でも、つまらないわね、声だけでは。ああ、かうやつてゐる時に、あなたがフイと来て下さつたらどんなに嬉しいだらうと思ひますと、ぢつとしてはゐられません。本当にはやくゐらしつて下さいね。
 婆やは目が少しわるいので困りますが、他には申分ありません。子供(辻流二)を大事にしてくれますから。でも、あなたは子供の事を気にして下さるのね。いいおぢさんですこと。
 書いてゐるのが大ぎになつて来ましたからやめます。さよなら。
 あなたの手紙は二度とも六銭づつとられましたよ。でも、うれしいわ、沢山書いて頂けて。
[『大杉栄全集』第四巻、大杉栄全集刊行会、一九二六年九月]



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