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書簡 木村荘太宛
しょかん きむらそうたあて
副題(一九一三年六月二四日)
(せんきゅうひゃくじゅうさんねんろくがつにじゅうよっか)
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「定本 伊藤野枝全集 第二巻 評論・随筆・書簡1――『青鞜』の時代」 學藝書林
2000(平成12)年5月31日
入力者酒井裕二
校正者雪森
公開 / 更新2016-09-16 / 2016-08-31
長さの目安約 11 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

宛先  東京市麹町区平河町
発信地 東京市外上駒込染井三二九 辻方


 御手紙拝見いたしました。そして私はあの御手紙の全面に溢れたあなたの力強い真実に強く接しました。同時に私は何とも形容の出来ない苦しい気持ちになりました。実は昨日お会ひしました時 私はもつとお話しなければならないいろいろなものを持つて居りました。それはあなたがあの手紙をお書きになる前に知つておいて頂かねばならない事なのでした。昨日あすこでお別れしまして後に 私はかへつたらすぐにそれ等の事を書いてあなたに御送りしやうと思つたので御座いました。然し昨夜は可なり労れてゐましたので 何にも書けませんでした。そして今朝御手紙を拝見して私は本当にどうしていゝか分らなくなりました。私はあなたに何とお詫びしたらよろしいので御座いませう。本当に私が気がよはかつた為めに申後れてしまひました。でも私は、自分を偽はるといふ事の出来ない者で御座います。そしてまた人を欺く事も嫌いで御座います。私は、おなじみの浅いあなたに対して申あげる事ではないので御座いますが あなたをまじめな方だと信じて御話いたし度いと存じます そして、それは、あなたに一層私といふものがはつきりと御わかりになるといふ事と信じます。
 委しく御話すれば随分長いのですけれども くだらない事はぬきにして御話いたします。昨日御会ひしたあなたの眼にはどううつりましたか存じませんが 小さいうちからいろ/\な冷たい人の手から手にうつされて違つた土地の違つた風習と各々の人の違つた方針で教育された私は いろ/\な事から自我の強い子でした。そして無意識ながらも習俗に対する反抗の念は十二三才位からめぐんでゐたので御座います。私は生れた家にも、両親にも兄妹にも親しむ事の出来ない妙に偏つた感情を持つてゐるのです。十四五位から私は叔父に監督されて勉強するやうになりました。私の十七の夏、帰省しました時、意外にも、私は結婚の話を持ち出されました。本当に意外なのです。勿論私は断つてしまひました。然しその時には既にもうすべての約束はすんでゐたらしいのです。すべては叔父の専断でした。私は少しの猶予をも与へられずに結婚を強制されたのです のがるる事の出来ないと解つたときに私は周囲のすべての人を呪ひながら或る決心と共に式につらなりました。私は私の夫となるべき人が如何なる性格を持つた人か如何なる履歴を持つた人かも知りませんでした 姓名さへも私は知らなかつたのです。無論その人は私がすべてを捧げ得る人ではありませんでした。如何なる方面から云つても私とは反対の人らしく思はれました。私は意地をはりぬいて、ろくに口もきかずに直ぐに上京を口実にかへりました。そしてとう/\帰校いたしました。けれどもその時、私は五年でしたから卒業はすぐ目前にせまつてまゐりました。卒業して後は無論知らない嫌やな家庭に入らねば…

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