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双生児
そうせいじ
副題――ある死刑囚が教誨師にうちあけた話――
――あるしけいしゅうがきょうかいしにうちあけたはなし――
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「江戸川乱歩全集 第1巻 屋根裏の散歩者」 光文社文庫、光文社
2004(平成16)年7月20日
初出「新青年」博文館、1924(大正13)年10月
入力者門田裕志
校正者A.K.
公開 / 更新2016-12-08 / 2016-09-09
長さの目安約 25 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 先生、今日こそは御話することに決心しました。私の死刑の日も段々近づいて来ます。早く心にあることを喋って了って、せめて死ぬ迄の数日を安らかに送り度いと思います。どうか、御迷惑でしょうけれど、暫らくこの哀れな死刑囚の為に時間を御割き下さい。
 先生も御承知の様に、私は一人の男を殺して、その男の金庫から三万円の金を盗んだ廉によって死刑の宣告を受けたのです。誰もそれ以上に私を疑うものはありません。私は事実、それ丈けの罪を犯しているのではありますし、死刑と極って了った今更ら、もう一つのもっと重大な犯罪について、態々白状する必要は少しもないのです。仮令それが知られているものよりも幾層倍重い大罪であったところで、極刑を宣告せられている私に、それ以上の刑罰の方法がある訳もないのですから。
 いや必要がないばかりではありません。仮令死んで行く身にも、出来る丈け悪名を少くしたいという、虚栄心に似たものがあります。それにこればかりはどんなことがあっても、私は妻に知らせ度くない理由があるのです。その為に私はどれ程要らぬ苦労をしたことでしょう。その事丈けを隠して置いたとて、どうせ死刑は免れぬと判っていますのに、法廷の厳しい御検べにも、私は口まで出かかったのを圧えつける様にして、それ丈けは白状しませんでした。
 ところが、私は今、それを先生のお口から私の妻に詳敷く御伝えが願い度いと思っているのです。どんな悪人でも、死期が近づくと善人に帰るのかも知れません。そのもう一つの罪を白状しないで死んで了っては、余りに私の妻が可哀相に思えるのです。それともう一つは、私は私に殺された男の執念が恐ろしくてたまらないのです。いいえ、金を盗む時に殺した男ではありません。それはもう白状して了ったことですし、大して気がかりになりませんが、私はそれよりも以前に、もう一人殺人罪を犯していたのです。そして、その男の事を考えるとたまらないのです。
 それは私の兄でした。兄といっても普通の兄ではありません。私は双生児の一方として生れましたので、私の殺した男というのは、名前は兄ですが、私と同時に、母の胎内から生れ出た、ふたごの片割れだったのです。
 彼は夜となく昼となく私を責めに来ます。夢の中では、彼は私の胸に千鈞の重さでのしかかって私の喉を絞めつけます。昼は昼で、そこの壁に姿を現わして何とも云えぬ目つきで私を睨んだり、あの窓から首を出していやらしい冷笑を浴せたりします。そして、もっといけないことは、ふたごの片割れであった彼が、顔から形から私と寸分違わなかった点です。彼は私がここへ入らぬ前から、そうです、私が彼を殺した翌日から、もう私の前にその姿を現わし始めました。考えて見れば、私が第二の殺人を犯したのも、あんなにも企らんだその殺人罪が発覚したのも、凡て彼の執念のさせた業かも知れません。
 私は彼を殺した翌日から鏡を恐…

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