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盗難
とうなん
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「江戸川乱歩全集 第1巻 屋根裏の散歩者」 光文社文庫、光文社
2004(平成16)年7月20日
初出「写真報知」報知新聞社、1925(大正14)年5月15日
入力者門田裕志
校正者江村秀之
公開 / 更新2017-12-22 / 2017-11-24
長さの目安約 25 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 面白い話しがあるのですよ。私の実験談ですがね。こいつを何とかしたら、あなたの探偵小説の材料にならないもんでもありませんよ。聞きますか。エ、是非話せって。それじゃ至って話し下手でお聞きづらいでしょうが、一つお話しましょうかね。
 決して作り話しじゃないのですよ。と、お断りする訳は、この話はこれまで、度々人に話して聞かせたことがあるのですが、そいつがあんまり作った様に面白く出来てるもんだから、そりゃアお前、何かの小説本から仕込んで来た種じゃないか。なんて、大抵の人が本当にしない位なんです。しかし、正真正銘偽りなしの事実談ですよ。
 今じゃこんなやくざな仕事をしていますが、三年前までは、これでも私は宗教に関係していた男です。なんていいますと、一寸立派に聞えますがね。実は下らないんですよ。あんまり自慢になる様な宗教でもない。××教といってね、あなたなんか多分御承知ないでしょうが、まあ天理教や金光教の親類みたいなものです。尤も、宗旨のものにいわせれば、それや色々もっ体らしい理窟があるのですけれど。
 本山、というほどの大げさなものでもありませんが、そのお宗旨の本家は××県にありまして、それの支教会が、あの地方の一寸大きい町には大抵あるのです。私のいましたのはその内のN市の支教会でした。このN市のは数ある支教会の内でも仲々はぶりのいい方でしたよ。それというのが、そこの主任――宗旨ではやかましい名前がついてますけれど、まあ主任ですね。それが私の同郷の者で古い知り合でしたが、そりゃ実にやり手なんです。といっても、決して宗教的な、悟りを開いたという様なのではなくて、まあ商才にたけていたとでもいいますかね。宗教に商才は少し変ですけれど、信者をふやしたり、寄附金を集めたりする腕前は仲々あざやかなものでしたよ。
 今もいった様に、私はその主任と同郷の縁故で、あれは何年になるかな。エート、私の二十七の年だから、そうですね、ちょうど今から七年前ですね。そこへ住み込んだのですよ。一寸したしくじりがありまして、職に離れたものですから、どうにも仕様がなくて、一時のしのぎに、早くいえば居候をきめ込んだ訳ですね。ところが、一向足が抜けなくて、ごろごろしている内には、段々宗旨のことにもなれて来る、自然色々の用事を仰せつかる、という訳で、しまいにはその教会の雑用係として、とうとう根をすえてしまったのです。あれで、足かけ五年も居ましたからね。
 無論私は信者になった訳ではありません。根が信仰心の乏しい所へ、内幕を知ってしまって、しかつめらしい顔をしてお説教をしている主任が、裏へ廻って見れば、酒を飲むわ、女狂いわするは、夫婦げんかは絶え間がないという始末では、どうも信仰も起りませんよ。やり手といわれる様な人にはあり勝のことなんでしょうが、主任というのはそんな男だったのです。
 ところが、信者となると、…

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