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透明怪人
とうめいかいじん
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「虎の牙/透明怪人」 江戸川乱歩推理文庫、講談社
1987(昭和62)年12月8日
初出「少年」光文社、1951(昭和26)年1月号~12月号
入力者sogo
校正者大久保ゆう
公開 / 更新2017-05-14 / 2017-03-11
長さの目安約 199 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

ろう人形
 そのふたりの少年は、あんなこわいめにあったのは、生まれてからはじめてでした。
 春のはじめの、ある日曜日、小学校六年の島田君と木下君は、学校の先生のおうちへあそびにいって、いろいろおもしろいお話を聞き、夕方になって、やっと先生のうちを出ました。そのかえり道の出来事です。
「おや、へんだね、こんな町、ぼく一度も通ったことがないよ。」
 島田君がふしぎそうに、あたりを見まわして、言いました。
「ほんとだ。ぼくも通ったことがないよ。なんだか、さびしい町だね。」
 木下君も、へんな顔をして、人っこひとりいない、広い大通りを見まわしました。
 夕方のうすぼんやりした光の中に、一度も見たことのない町が、ふたりのまえに、ひろがっていたのです。くだもの屋だとか、菓子屋だとか、牛肉屋などが、ずっとならんでいるのですが、どの店にも、人のすがたがなく、まるで、人間という人間が、この世からすっかりいなくなって、店屋だけが、のこっているのではないかと、あやしまれるほどでした。
「へんだなあ。」と思いながら、あるいていますと、一けんのりっぱな骨董屋が目につきました。大きなショーウィンドーのなかに、古い仏像だとか、美しいもようの陶器などが、たくさんならべてあります。ふたりの少年は、思わずその前に立ちどまりました。
「ぼくのおとうさんは、こういう仏像がすきなんだよ。いっしょにあるいていて、骨董屋があると、きっとたちどまるんだよ。そして、いつまでもながめている。でも、ぼくは古い仏像なんて、きらいだな。なんだかきみが悪いんだもの。」
 島田君が言いますと、木下君も、
「ウン、きみが悪いね。博物館の仏像の部屋ね、あれみんな生きてるみたいだね。ぼく、いつか博物館へいったとき、こわくなっちゃった。でも、あの仏像は、たいてい国宝なんだね。」
「ねえ、きみ、あのまんなかにある黒いかねの仏像ね、インド人みたいな顔してるね。」
「仏像って、たいていインド人の顔だよ。仏教はインドからはじまったんだもの。」
 ふたりはそんなことを言いながら、だんだんショーウィンドーの横手のほうへ、まわってゆきました。横からでないと、よく見えない仏像があったからです。
 ふと気がつくと、ふたりがはじめに立ちどまった、ショーウィンドーの正面に、ひとりの洋服の紳士が立っていました。ソフト帽をまぶかにかぶり、オーバーのえりを立てて、それにあごをかくすようにして、じっと一つの仏像を見つめています。それは黒っぽい金属でできた、高さ十五センチほどの小さい仏像ですが、ショーウィンドーのまんなかに、りっぱな台にのせて、さもだいじそうに、かざってあるのです。
 木下少年は、その紳士の顔を、しばらく見ていたかと思うと、なぜか、びっくりしたように、いきなり、ひじで島田少年のわき腹をつきました。
 島田君がおどろいて、目をあげますと、木下君…

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