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チャールズ・デクスター・ウォードの事件
チャールズ・デクスター・ウォードのじけん
作品ID57254
原題THE CASE OF CHARLES DEXTER WARD
著者ラヴクラフト ハワード・フィリップス
翻訳者The Creative CAT
文字遣い新字新仮名
入力者The Creative CAT
校正者
公開 / 更新2015-08-20 / 2019-11-22
長さの目安約 272 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

「獣類の本質を成す塩類を然るべく用意し保存する時には、発明の才に恵まれた者は、その研究室にノアの方舟の全体を設置し、思うがままに、獣の灰から精巧なる元来の姿を召喚することができる。哲人も、死せる先祖の姿を、人類の塵の本質を成す塩類を用いる同様な方法によって、違法な降霊術によらずともその遺体を焼いた灰から呼び出すことができる。」
――ボレルス

I. 結末と序曲


1 ロードアイランド州プロヴィデンス近くの私立精神病院から、最近、他に類を見ない人物が消失した。その名をチャールズ・デクスター・ウォードといい、大いに意に沿わないことながら、彼の逸脱行為が単なる奇行から暗黒の偏執狂へと移行するのを見て悲嘆する父親によって、同院に拘束されていた。その偏執狂ぶりは、殺人的傾向と、精神の内容におけるあからさまに奇妙な変化とを含んでいた。異常は心理的な性格のみならず一般的な生理学的変化にも及んでおり、医師たちは、この症例に当惑し切っていると漏らしていたのである。
 第一に、患者は二十六歳にしては年長に見えすぎた。精神疾患は確かに人を早く老け込ませる。しかしこの青年の顔には、どことなく、ふつう大変な高齢者のみが獲得する表情があった。第二に、臓器機能において医学上経験のない程の奇矯な不均衡があった。呼吸と心臓の動作は奇妙に対称性を欠いていた。消化機能は信じられない程遅延し最小限に落ち込んでおり、標準的な刺激に対する神経系の反応には、これまで知られた正常なあるいは病理的な記録の中で、似通ったものが全くなかった。皮膚は病的に冷えて乾き、組織の細胞構造は異様に粗雑で弛緩しているようだった。右臀部にあった大きなオリーブ色の母斑すら消え、一方で胸に、これまで全く存在しなかった奇妙な黒子ないし黒斑が現れた。総じて、ウォードの代謝機能が前例のない程遅延していることに医師全員が同意した。
 心理学的にも、チャールズ・ウォードは独特だった。最新かつ最も網羅的な文献を調べても彼の狂気に類似したものはなく、異様かつグロテスクな形に歪んでいなければ彼を天才や指導者にしたであろう精神の力と結びついていた。ウォードかかりつけの家庭医であるウィレット医師は、狂気以外の領域での事物に関する反応からみて、発作後、患者の精神能力は間違いなく向上していると断言した。確かにウォードは常に研究家であり古物愛好家だった。だが、彼の初期作品の中で最高のものですら、精神科医による最後の試験の中で彼が示した桁外れに深い把握力をみせてはいなかったのだ。実際のところ、青年の精神がこれほど力強く清明にみえる以上、彼を病院内に拘禁する法的な根拠を挙げるのは困難だった。彼を幽閉するためのわずかな根拠は、他の人の証言や、知性とは別に、彼の中に蓄えられている知識が持つ異常かつ大量なギャップであった。失踪時ですら、彼は濫読家であり、弱々しい…

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