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雪の化石2
ゆきのかせき2
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「中谷宇吉郎集 第八巻」 岩波書店
2001(平成13)年5月7日
初出「高分子 第七巻第七十三号」高分子学会、1958(昭和33)年3月20日
入力者kompass
校正者砂場清隆
公開 / 更新2016-03-12 / 2016-02-04
長さの目安約 10 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 雪の化石をつくろうと思い立ったのは、もう二十年以上も昔の話である。
 昭和五年に新しく出来た北大の理学部へ赴任して、間もなく雪の研究にとりかかった。そして冬ごとに、十勝岳の白銀荘へ出かけて行って、雪の結晶の顕微鏡写真をせっせと撮っていた。
 十勝岳の雪は、結晶の美しさとその種類の豊富さという点ではおそらく世界にも類例が少ないように思われる。その後いろいろなところで、雪を調べてみたが、十勝岳に匹敵しうるところは、グリーンランドの氷冠上くらいのものである。
 二、三年十勝岳へ通っているうちに、何とかしてこの美しい雪の結晶を、そのまま固めて、暖国の子供たちに見せてやれないものかと思うようになった。動機は、ドイツの雑誌に、氷の化石の話が出ていたのを見たからである。
 ドイツの北方海岸に近いところから、ときどき妙な化石が出ていた。形はしゅろの葉を小さくしたような形で、まっすぐな葉が、放射状に広がり、そういう群が点々として一面にちらばっている。どう見ても、しゅろ系統の植物の葉としか思われない。そこで化石学者の間でも、何か未知の植物の化石とみなされていた。中には、その植物の名前までつけた人があった。
 ところが、この「葉」の形が、海岸の干潟の濡れた砂の上に出来る氷の形と、非常に似ている点に着目した人があった。そしていろいろ調べて、実験などもやってみた結果、これは植物の化石ではなく、濡れた砂の上に出来る氷の化石であるという結論になった。波の痕や、小動物の足跡なども、化石になって残っているのであるから、そういうことがあっても、ちっともおかしくはないのである。砂の上に出来る薄氷の化石が出来るくらいならば、雪の結晶の化石も出来てよいはずである。雪自身を0度以上のところに保存することは、それはもちろんできない。しかし化石は何も、そのものを保存する必要はないので、痕跡をとどめればよいのである。それで天然に化石の出来る順序を、雪の場合に適用すれば、この問題は解決されることになる。
 それには、まず水を溶かさない液体で、0度以下で液状を保っているものを使う。この液中に雪の結晶をひたしておいて、0度以下に保ちながら、この液が固化すれば、望みの雪の化石が出来るはずである。理窟は確かにそれで良いのであるが、そういううまい液体がなかなか見当らない。高分子などという言葉もまだ知らなかった時代の話である。
 それで手当りしだいに、いろいろなものを試みたのであるが、どうもうまく行かない。そのうちでは、コロホニウムを、クロロホルムに溶かした溶液が、少し有望らしかった。初め液状であって、それで短時間内に固化する、というような液体を探すことは、ちょっとむつかしい。それで溶液を使って、溶液が蒸発したあと、固体が残るものを試みたわけである。
 このコロホニウムのクロロホルム溶液は、一応その目的にかなうのでクロ…

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