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大雪山二題
たいせつざんにだい
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「中谷宇吉郎集 第五巻」 岩波書店
2001(平成13)年2月5日
初出大雪山の雪「随筆 四月号」随筆舎、1952(昭和27)年4月1日
入力者kompass
校正者砂場清隆
公開 / 更新2017-03-10 / 2017-02-03
長さの目安約 12 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

一 大雪山の雪

 昭和二十二年の秋の話である。
 その頃私は、資源関係の或る会の委員をしていて、日本の水資源の調査を一部やることになっていた。敗戦後の日本に残された資源のうちで一番大きいものは水であるから、これは少し真面目にやってみる必要がある。というので、柄にないことを始めたわけである。
 ところで水資源のうちで、一番大きいものは、日本では、まず雪であるということに気がついた。これは我田引雪の話ではなく、日本が世界的に見ても、非常に雪の多い国であることは、小学校の生徒でも皆知っている。それから雪が解けると水になることも、改めていうと叱られるくらい明白なことである。それで日本の国で水資源を論ずるとしたら、雪を真先にとりあげるべきである。
 ところが日本には、昔から妙な習慣があって、雪というと、必ず害という字をつけないと、気がすまないことになっている。雪害対策、雪害防止委員会、白魔などと、雪はひどくきらわれものになっていた。しかしこれは日本だけの話であって、外国ではその反対のように取扱われている場合が多い。
 例えばアメリカで、この頃流行の綜合開発というのは、冬の間に高山地帯に積った雪が、春さきになって解けて川へ流れ出る、その水をダムによって貯えておいて、それで発電をし、且つ年間を通じて平均にこの水を、水道や灌漑に利用しようというのが、その主眼である。スイスでも、最近のことであるが、アルプス全山に積った雪の雪解け水を利用して、大発電事業を起そうといって、調査が始められている。
 それで世界の雪の本場である日本でも、もうそろそろ雪害意識から脱却してもよい頃である。一体、日本アルプスに積っている雪が何兆トンあるか、大体のことでもいいから見当をつけてみろといっても、誰も一言も答えられないのだから、誠に妙である。山にある雪は、とけて水になって流れ落ちる時に、あれだけの雪を山頂まで持ち上げるのと同量の勢力を出してくれる。この勢力は水力電気として使うのが一番有利なのであるが、それはたいへんな電力にかわるのである。白がいがいの連山などと、詩情を喜ばせていてはいけないので、あれは全部お札が積んであるようなものである。日本の国の一番の財産であるのに、その勘定を今まで一度もしたことがなく、春になるとほとんど全部ただで海へ流してしまっていたわけである。
 それで手始めとして、北海道の石狩川の水源地帯である、大雪山に白羽の矢を立てて、そこでこの雪量測定をすることにした。もっとも大雪山全体では、あまりにもことが大きくなるので、上流地域におけるその支流の一つ、忠別川を選定し、その水源地帯に積っている雪の全量を測ってみることにした。そしていろいろ計画を立ててみると、どうしても、全地域の航空写真が必要であるという結論に達した。全地域をいくら克明に調べて廻っても、けっきょく線の上の話であって…

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