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雪は資源である
ゆきはしげんである
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「中谷宇吉郎集 第五巻」 岩波書店
2001(平成13)年2月5日
初出「国立公園 第二十九号」国立公園協会、1952(昭和27)年4月1日
入力者kompass
校正者砂場清隆
公開 / 更新2016-07-04 / 2016-06-10
長さの目安約 11 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 昭和二十三年の冬、北海道の大雪山で雪の調査をしたことがある。
 雪の調査というのは、雪の深さを測るのではなく、雪の目方を測る調査なのである。雪は春になれば、解けて川へ流れ出るわけであるが、その時どれだけの水量が出るかは、冬の終りに山に積っている雪の量できまる。目方は雪がとけて水になっても変らないから、雪の目方を測っておけば、雪解け水の量も分ることになる。
 目的が川へ流れ出る水の量を予知するところにあるので、この調査は、一つの川の集水区域全体について行なう必要がある。或る川の集水区域というのは、前にも説明したように、この区域の周囲をめぐっている分水嶺でかこまれた地域のことである。ちょっとした川でもこの地域は非常に広いので、調査はなかなか困難である。
 この種の調査は、アメリカでは、もう二十年もの昔から、毎年行なわれている。アメリカは水の乏しい国で、とくに西半分のあの広大な土地は、春から秋にかけて、ほとんど雨が降らないので、大部分が沙漠又は半沙漠地帯になっている。普通では人間の住めない土地である。ただところどころに川があるので、その流れに沿ったところに緑地帯があって、其処で農耕をしたり、又都会が出来ている。
 こういう雨の降らないところに、どうして川があるかというに、その源は主として高山地帯に冬の間に降る雪である。カリフォルニア州と、ネヴァダ州との境にあるネヴァダ山脈、コロラド一帯に聳えているロッキイ山系などには、かなりの量の雪が降る。この雪が春になって、解けて川に流れ出る。その水が、川水の大部分を占めているのである。それでアメリカのこの地方の川は、春さきにひどい洪水を起し、夏になるとほとんど干上ってしまうものが多い。アメリカの綜合開発というのは、高いダムを造って、この春さきの洪水の水を貯水湖に貯えてそこで発電をし、又その水を一年中平均して使うのが、その主眼となっている。
 こういう風土のところであるから水資源といえば、高山地帯に降る雪だけといっていいくらいである。もしネヴァダ山脈やロッキイ山系に雪が降らなかったら、日本の十倍以上の広い土地には、人間が住めなくなる。それでアメリカでは雪といえば、国の宝と思われている。日本では、雪といえばすぐ雪害という言葉が出るので、全く反対である。
 それでアメリカでは、この大切な水資源である雪の調査を以前からやっているのも、当然なことである。しかし日本でも水の必要なことは、アメリカと全く同様である。というよりも、敗戦後の日本に残された資源の中では、水が最も大切な資源といえよう。日本が世界に稀れな多雪国であることは、小学校の生徒でも皆よく知っている。雪は解ければ水である。だから雪は日本の一番大切な資源なのである。
 ところが不思議なことには、この雪の調査が、今まで日本で一度もなされたことがないのである。もちろん全国の測候所で…

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