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チカモーガ
チカモーガ
作品ID57340
原題CHICKAMAUGA
著者ビアス アンブローズ
翻訳者The Creative CAT
文字遣い新字新仮名
入力者The Creative CAT
校正者
公開 / 更新2015-09-19 / 2019-11-22
長さの目安約 16 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 ある晴れた秋の午後、一人の子供が小さな農場の粗末な家屋から迷い出て、誰にも見られず森に入った。束縛されない自由という新たな感覚が嬉しく、探検と冒険の機会を持てたことが嬉しかった。なぜなら、この子供の精神は、記憶に残る発見と征服の――戦勝の決定的瞬間は何世紀も語られ、勝利者の陣地は記念碑の立ち並ぶ町となるのだ――功績に向けて、父祖の身体の中で何千年もの間培われてきたからだ。その民族は揺籃期以来二つの大陸を征服しつくし、大海を渡ると第三の大陸に浸透し、そこでも戦争と支配の伝統のために生まれるのだ。
 その子供は六歳ばかりの男の子で、貧しい農場主の息子だった。彼の父親は若い時分兵士であり、裸の野蛮人と戦い、文明民族の冠たる祖国の旗の下、遠い南部にまで行った(*1)。農場で平和に暮らしていても戦士の炎は消えていなかった。いったん燃え上がれば、消えることはないのだ。男は軍事関係の書籍と絵画を愛し、男の子は自分で木刀を作れるくらい知恵がついていた。もっとも父親の目から見ても、それが何のためかわからなかったのだが。今、彼はその武器を雄々しく佩き、英雄的な民族の息子となって、時々、陽の当る森の空き地で幾分仰々しく立ち止まった。彫像を見て覚えた攻撃と防御の構えを取っているつもりなのである。彼の進攻を阻止せんとする目に見えない敵をあまりにもあっけなく討ち取ったせいで彼は無謀になり、深追いという極めてありふれた軍事的失敗を犯した。気がつけば目の前に広くて浅い小川があり、その急流は彼の追撃をせきとめたが、恨む敵は馬鹿らしい程易々とそれを飛び越えてしまった。だが、恐れを知らぬ征服者に挫折の文字はない。大海原を渡った民族の精神はこの小さな胸の中にも不屈の炎を上げ、否定すべからざるものだったのだ。流れの中に跳んで渡れる程度に離れた幾つかの漂礫を認めた彼は小川を渡り、空想上の敵の後衛に打ちかかって、残らず刃の露となさしめたのである。
 今や戦は勝利に終わり、分別は強者に策源地への帰投を要求していた。ああ、より強き征服者、最強の征服者にも似て、彼は

戦への渇きに轡をはめ難く
最高位の星すら怒れる運命の女神に見放さること学ばざりき。(*2)

 水路の土手から更に進むと、彼は一層恐るべき新たな敵に直面していることに気づいた。彼が辿っていた小径の中に、すっくと座る、耳を立て両腕をその前に構えたものがいた。ウサギだ! 子供は驚いて叫び、踵を返して逃げ出した。どこに向かっているのか判らず、言葉にならない叫びで母を呼び、そぞろ泣きながら、よろめきながら。彼の柔らかい肌は低木の刺に酷く裂かれ、彼の小さい心臓は恐怖に早鐘の如く打った――息もできず、涙に目も見えず――森の中で迷ってしまったのだ! 彼は過てる足とともに一時間以上絡み合う下生えの中を彷徨い、ついに疲労に圧倒され、二つの岩の間の狭い空間に倒れ…

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