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右門捕物帖
うもんとりものちょう
副題34 首つり五人男
34 くびつりごにんおとこ
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「右門捕物帖(四)」 春陽文庫、春陽堂書店
1982(昭和57)年9月15日
入力者tatsuki
校正者kazuishi
公開 / 更新2000-03-13 / 2014-09-17
長さの目安約 53 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

     1

 その第三十四番てがらです。
 事の起きたのは九月初め。
 蕭々落莫として、江戸はまったくもう秋でした。
 濠ばたの柳からまずその秋がふけそめて、上野、両国、向島、だんだんと秋が江戸にひろがると、心中、川目付、土左衛門舟、三題ばなしのように決まってこの三つがふえる。もちろん、心中はあの心中、川目付は墨田の大川の川見張り、やはり死によいためにか、十組みのうち八組みまでは大川へ入水して、はかなくも美しい思いを遂げるものがあるところから、これを見張るための川目付であるが、土左舟はまたいうまでもなくそれらの悲しい男仏女仏を拾いあげる功徳の舟です。
 公儀でお差し立ての分が毎年三艘。
 特志で見回っているのが同様三艘――。
 幡随院一家が出しているのが一艘に、但馬屋身内で差し立てているのが一艘。同じく江戸にひびいた口入れ稼業の加賀芳一家で見まわらしているのが一艘と、特志の土左舟はつごうその三艘でした。墨田といえば名にしおう水の里です。水から水へつづく秋のその向島に、葦間を出たりはいったり、仏にたむけた香華のけむりを艫のあたりにそこはかとなくなびかせながら、わびしいその土左舟が右へ左へ行き来するさまは、江戸の秋のみに見る悲しい風景の一つでした。
 そのほかにもう一つ、秋がふけるとともに繁盛するものがある。質屋です。衣がえ、移り変わり、季節の変わりめ、年季奉公の変わりめ、中間下男下女小女の出入りどきであるから、小前かせぎの者にはなくてかなわぬ質屋が繁盛したとて、なんの不思議もない。
 しかし、不思議はないからといって、伝六がこの質屋に用があるとすると、事が穏やかでないのです。
「いいえ、なにもね。あっしゃべつにその貧乏しているってえわけじゃねえんだ。これもみんな人づきあいでね。物事は何によらず人並みにやらねえとかどがたつから、おつきあいに行くんですよ。え? だんな。だんなは何もご用はござんせんかい」
「バカだな」
「え……?」
「えじゃないよ。きょうは幾日だと思ってるんだ」
「まさに九月九日、だんなをめえにしてりこうぶるようだが、一年に九月九日っていう日はただの一日しかねえんですよ」
「あきれたやつだ。そんなことをきいているんじゃねえ、九月の九日はどういう日だかといってきいてるんだよ」
「決まってるじゃござんせんか。菊見のお節句ですよ」
「それを知っていたら、今もう何刻だと思ってるんだ。やがて六ツになるじゃねえか。九月の九日、菊見の節句にゃ暮れの六ツから、北町南町両ご番所の者残らずが両国の川増でご苦労ふるまいの無礼講と、昔から相場が決まってるんだ。まごまごしてりゃ、遅れるじゃねえかよ」
「じつあそいつに遅れちゃなるめえと思って、ちよっとその質屋へね」
「質屋になんの用があるんだ」
「べつに用があるというわけじゃねえんだが、ちょっとその、なんですよ、じつあ一…

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