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人類の生存競争
じんるいのせいぞんきょうそう
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「進化と人生(上)」 講談社学術文庫、講談社
1976(昭和51)年11月10日
初出「中央公論」1905(明治38)年10月
入力者矢野重藤
校正者y-star
公開 / 更新2017-07-26 / 2017-07-21
長さの目安約 14 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 世には人類の生存競争と他の動物の生存競争とは全く種類の違うたものであると考える人がある。中には高等動物になればなるほど、生存の競争がゆるやかになり、下等動物に見るがごとき咬み合い殺し合うような残酷なことはなくなってしまう、今日人類に生存競争のなお絶えぬのはいまだ人類が不完全なるゆえであって、人類が今日よりも進歩さえすればついに全く生存競争はなくなるという説を唱える人もある。また世の文明が進めば、今日おのおの独立している国々はすべて連邦となり、全世界を統一した一大合衆国ができて国と国との争いはなしにすむようになると論ずる人もある。われらから見ればこれはいずれもよほど間違うた説で、もしまじめにかような説を信ずる人が多数にあったならば、国としての平素の用意に悪い影響をおよぼすかもしれぬから、ここにいささか他の動物に比して人類の生存競争を論じてみようと思う。
 動物でも植物でもおよそ生きている物は実際生存しうべき数に比して数倍、数百倍もしくは数万倍の子を産み、その上、代の重なるごとに幾何級数的に増加してゆくゆえ、最も少数の子を産む種類といえども、もし、それがことごとく生存し繁殖したならばたちまち非常な数となるわけで、とうてい生存のための競争をまぬがれえない。人間は他の動物に比すると子を産むことのはなはだ少ないものではあるが、それでも女一人が平均四人半以上の子を産む勘定になっているゆえ、生存競争をまぬがれえぬことは全く他の動植物と同じである。しかしながら人間では生存競争のありさまがよほど他の動物の状態とは違うて個人と個人とが咬み合い殺し合うことはいたってまれで、かえって個人と個人とが互いに助け合う場合も少なくないゆえ、その点だけを見ると人類の生存競争は、他に比してすこぶるゆるやかであるごとくに見える。動物は高等なものになるほど生存競争がゆるやかになるなどという説はおそらくこれに基づいたものであろう。
 およそ動物を互いに比較して甲乙いずれのほうの生存競争がはげしいかを論ずる場合には、各動物の生存競争の全部を残りなく観察して、互いにくらべねばならぬ。甲動物の生存競争の一部と乙動物の生存競争の全部とを比較して、甲におけるよりも乙のほうが競争が劇烈なりなどと考えるのはむろん大なる誤りである。動物には各個体が単独に生活するものと、多数の個体が集まって団体を造るものとがあって、単独生活をする動物ならば個体間の生存競争がその動物の生存競争の全部であるが、団体生活をする動物では生存競争は主として団体と団体との間に行なわれ、個体間の競争のごときはわずかにその一小部分に過ぎぬ。もっとも完結した団体を造るものでは団体間の生存競争が、すなわちその動物の生存競争の全部であって、同一団体に属する個体の間には少しも競争はない。されば、単独生活をする野獣の生存競争と、団体生活をする人類の個人間の…

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