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生物学より見たる教育
せいぶつがくよりみたるきょういく
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「進化と人生(上)」 講談社学術文庫、講談社
1976(昭和51)年11月10日
初出「教育学術界」1902(明治35)年4月
入力者矢野重藤
校正者y-star
公開 / 更新2017-09-20 / 2017-08-25
長さの目安約 14 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 教育の書物を開いて見ると「教育トハ一定ノ目的ト方法トヲ具ヘテ教育者ガ被教育者ニ加フル所ノ働作ナリ」などとむずかしい定義を下して、これは人類のみに限るものであると書いてあるが、教育学者の言うところの教育はあるいは人類に限られてあるか知らぬが、教え育てるということは動物界において決して珍しいことではない。元来教育という字の原語の Education, Erziehung などという字はいずれも引き出すという意味で、被教育者の生来持っている種々の能力を引き延ばし発達せしめること、すなわち知能を啓発することをいうのであろうが、教育という字をこの意味に取れば教育を行なう動物はいくらもある。まず実際教育を行なう動物の例を二つ三つ掲げて、それから教育の生物学上の意義を述べよう。
 小鳥類の子供が親あるいはその他の成長した同胞から歌うことを習うはたれも知っていることで、多少種類の違った鳥でも卵の時からあるいは幼い雛の時からある他の鳥に育てさせると、成長する間に養い親の歌を覚えて、自分の種属に固有な歌とは全く違った歌を巧みに歌いうるようになる。小鳥を熱心に飼う人は自分の鳥の声をよくするためには、よい声を有する鳥のそばへ連れて行ってこれを習わせ、またはこれと競争させてますます声を発達させようとはかるが、これを見ても鳥の声などは教えようによっていかようにも進歩させることのできるものであることがわかる。
 鳥類にはその子に歌を教えるものがあるばかりではない、あるいは餌をついばむことを教えるものがあり、あるいは飛ぶことを教えるものがあり、あるいはおよぐことを教えるものがある。これらのことはくわしく鳥類の習性を観察した人が記載しておいたものを見ると明瞭にわかるが、自分でも少し注意しておれば実物からいくらも見ることができる。たとえば鶏がたくさんの雛を連れて庭に餌を拾い歩いているところを見ると、親鳥は餌を見いだすたびごとに雛を呼び集め、自ら餌をついばんでは雛の集まっている中へ落して、その地面に当たって跳ね散るところを雛に拾わせていることがあるが、これは雛に餌を速かについばむ術を練習させているのであろう。地上に落ちて動く小さな餌を巧みに速かについばみ取るには眼の働きも充分でなければならず、また頸や嘴を動かす種々の筋肉がみな調和して働かなければならぬ。しかして種々の筋肉の調和した働きというものは、練習の結果として初めて完全にできるものであることは、ベースボール、ローンテニスのごとき遊戯でも、書画、裁縫のごとき芸術でもみな大いに練習を要するということを見ても知れる。
 ある博物家が海鳥が雛におよぐことを教えるところを精密に観察して書いておいたものを読んだことがあるが、たしかに一定の目的と方法とがそなわってあるように思った。まず親鳥が一匹の魚を捕え、半殺しにして雛の頭より一二尺隔たったところへ放…

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