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民族の発展と理科
みんぞくのはってんとりか
作品ID57426
著者丘 浅次郎
文字遣い新字新仮名
底本 「進化と人生(上)」 講談社学術文庫、講談社
1976(昭和51)年11月10日
初出「静岡市教育会にて講演」1910(明治43)年2月
入力者矢野重藤
校正者y-star
公開 / 更新2017-11-07 / 2017-10-25
長さの目安約 14 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 わが国は今より十数年前に一度支那と戦うて勝ち、また数年前には世界の強国なるロシアと戦うてこれに勝ち、その結果として国の位置が非常に進んで、一等国と称せられるにいたった、これは大いに喜ぶべきことである。しかしながら何事でも名誉が上がれば、それとともに責任も重くなるもので、一等国といわれる位置を保ってますます発展してゆくには、今後はよほどの骨折りを要する。それについてはまず従来の一等国とわが国とをくらべてみて、各方面における優劣を調べ、もしわがほうに優った点があったならば、これはよろしく保護していつまでも他に優った位置を失わぬようにし、また少しでも他に劣ったところがあるならばこれは力をつくして一刻もはやく、他に追いつき、さらに他を追いこすようにと心掛けねばならぬ。
 およそ一民族が隆盛におもむくには必要な条件が数多くある。すなわち人民の身体が強壮でなければならず、勇気もなければならぬ、意志の強固なことも必要であれば、道徳の正しいことも必要であり、特に協力一致の精神に富んで国を挙げて敵に当たるの覚悟がなければならぬ。しかしながら今日実際においていかなる国が最も勢を得ているかというと、たしかに文明的新知識の進んだ国である。すべて他の方面が対等である場合には、文明的新知識の一歩でも先へ進んだ国のほうが、今後も競争に勝つ見込みが多いに定まっているゆえ、いずれの民族でもその将来の発展をはかるには、よほどこの点に重きをおかねばならぬ。今この方面についてわが国と他の一等国とを比較してみると、はなはだ残念ながら現今のわが国は欧米の旧一等国よりも非常に劣っていてほとんど足もとにも達しない。このことは自身で外国へ行って、わが国のありさまとかの国のありさまとを実際に比較してみれば誰にも明らかに知れるはもちろんであるが、わが国とかの国との新聞や雑誌をくらべてみただけでも、その間にいちじるしい懸隔のあることがただちに知れる。元来新聞や雑誌は社会のできごとを写した小さな鏡のごときもので、広告欄だけを見てもその社会の文明の程度が知れるが、わが国の新聞紙と他の一等国の新聞紙とを取って広告欄をくらべてみると、その間の相違はずいぶんはなはだしい。かの国の新聞雑誌には自動車、自動船、ガス電気の発動機、瓶入りの液体空気、液体水素とか、石英をとかしたガラスの細工とかラジウムの賃貸とか、飛行機試験場の回数切符売り出しとかいう類が紙面の大部を占めて、どこを見ても文明的新知識があふれているように感ずる。これにくらべるとわが国の新聞雑誌に出る広告は雲泥の相違で、蒸気機関のごとき古めかしい物の広告さえほとんど出ていない。もっとも広く場所を取っているのはいつも売薬か化粧品くらいで、その他には月の始めに文芸雑誌が並んで出ているに過ぎぬ。また輸出する産物をくらべてみてもこの相違が明らかに知れる。すなわちわが国の産物と…

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