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毒草
どくぐさ
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「江戸川乱歩全集 第3巻 陰獣」 光文社文庫、光文社
2005(平成17)年11月20日
初出「探偵文藝」奎運社、1926(大正15)年1月
入力者金城学院大学 電子書籍制作
校正者門田裕志
公開 / 更新2018-04-26 / 2018-03-26
長さの目安約 10 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 よく晴れた秋の一日であった。仲のよい友達が訪ねて来て、一しきり話がはずんだあとで、「気持のいい天気じゃないか。どうだ、そこいらを少し歩こうか」ということになって、私とその友達とは、私の家は場末にあったので、近くの広っぱへと散歩に出掛けたことであった。
 雑草の生い茂った広っぱには、昼間でも秋の虫がチロチロと鳴いていた。草の中を一尺ばかりの小川が流れていたりした。所々には小高い丘もあった。私達はとある丘の中腹に腰をおろして、一点の雲もなくすみ渡っている空を眺めたり、或は又、すぐ足の下に流れている、溝の様な小川や、その岸に生えている様々の、見れば見る程、無数の種類の、小さい雑草を眺めたり、そして「アア秋だなあ」とため息をついて見たり、長い間一つ所にじっとしていたものである。
 すると、ふと私は、やはり小川の岸のじめじめした所に生えていた、一叢のある植物に気がついたのである。
「君、あれ何だか知っているか」
 そう友達に聞いて見ると、彼は、一体自然の風物などには興味を持たぬ男だったので、無愛想に、「知らない」と答えたばかりであった。が、如何に草花の嫌いな彼も、この植物丈けには、きっと興味を持つに相違ない訳があった。いや、自然を顧みない様な男に限って、この植物の持つ、ある凄味には、一層惹きつけられる筈だった。そこで、私は、私の珍しい知識を誇る意味もあって、その植物の用途について説明を初めたものである。
「それは××××といってね、どこにでも生えているものだ。別に烈しい毒草という訳でもない。普通の人は、ただこうした草花だと思っている。注意もしない。ところが、この植物は堕胎の妙薬なんだよ。今の様に色々な薬品のない時分の堕胎薬といえば、もうこれに極っていたものだ。よく昔の産婆なんかが、秘法のおろし薬として用いたのは、つまりこの草なんだよ」
 それを聞くと、私の友達は案の定、大いに好奇心を起したものである。そして、一体全体、それはどういう方法で用いるのだと、甚だ熱心に聞訊すのであった。私は「さては、早速入用があると見えるね」などとからかいながら、お喋りにも、その詳敷い方法を説明したのである。
「これをね、手の平の幅だけ折り取るのだ。そして皮をむいて、そいつを……」
 と、身振り入りで、そういう秘密がかったことは、話す方でも又面白いものだ、フンフンと感心して聞いている友達の顔を眺め眺め、こまごまと説明したのである。
 それから、その堕胎談がきっかけになって、私達の話は産児制限問題に移って行った。その点では友達も私も、近頃の若い者のことだ。無論話が合った。制限論者なのだ。ただそれが誤用されて、不必要な有産階級に行われ、無産社会には、そんな運動の起っているのを知らぬ者が多い、現にこの近所には貧民窟の様な長屋があるのだが、そこではどの家も必要以上に子福者ばかりだ、という様なことを…

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