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右門捕物帖
うもんとりものちょう
作品ID578
副題18 明月一夜騒動
18 めいげついちやそうどう
著者佐々木 味津三
文字遣い新字新仮名
底本 「右門捕物帖(二)」 春陽文庫、春陽堂書店
1982(昭和57)年9月15日
入力者tatsuki
校正者柳沢成雄
公開 / 更新2000-08-10 / 2014-09-17
長さの目安約 29 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

     1

 右門捕物第十八番てがらです。
 事の勃発いたしましたのは九月中旬。正確に申しますると、十三日のことでしたが、ご存じのごとくこの日は、俗に豆名月と称するお十三夜のお月見当夜です。ものの本によると、前の月、すなわち八月十五日のお月見には、芋におだんごをいただくから芋名月と称し、あとの月のこのお十三夜には枝豆をいただくから豆名月というのだそうですが、いずれにしても当今のようにむやみとごみごみした時代とはちがって諸事おおまかにそして、風流にできていたお時代なんですから、こういうふうな神代ながらの年中行事となると、市中をあげてみな風流人になったもので、当時の名所というのがまず第一に道灌山、つづいては上野山内、それから少しあだっぽいところになると花魁月見として今も語りぐさになっている吉原。だから、ほろりとさせる古い句にも、名月や座頭の妻の泣く夜かな――というのがありますが、しかし、それは長そで雅人風流人のみに許された境地で、無風流なることわがあいきょう者のおしゃべり屋伝六ごときがさつ者にいたっては、道灌山に名月がさえようと、座頭の美しい新妻が目のない夫のためにわが目を泣きはらそうと、ただ伝六には事件があって、口うるさくお株を始められる機会さえあればいいんですから、前回のへび使い小町騒動以来、かれこれ二カ月のうえもこっち、いっこう目ぼしい事件が起きませんでしたので、おりからまたあいにくの非番――、よくよくからだを持ち扱っているとみえて、鳴ること鳴ること、そこの縁先で、やお屋から取り寄せた枝豆をせっせと洗っている善光寺辰に、ガラガラとからだじゅうを鳴らしながら、八つ当たりに当たり散らしました。
「ちぇッ。兄弟がいのねえ野郎だな。あごだって調子のものなんだ。使わずにおきゃ、さびがくらあ。善根を施しておきゃ、来世は人並みの背に産んでくれるに相違ねえから、もっと仏心出して相手になれよ」
「…………」
「耳ゃねえのか!」
「…………」
「ちょッ。やけに目色変えて、豆ばかりいじくっていやがらあ。だから、豆公卿だなんかと陰口きかれるんだ。――ね、だんな! ちょっと、だんな!」
「…………」
「いやんなっちまうな。だんなまで、あっしをそでにするんですかい。あごなんぞなでりゃ、何がおもしれえんですか。からだ持ち扱っているんですから、人助けだと思って相手になっておくんなさいよ」
 あちらへ当たり、こちらへ当たって、八つ当たりに鳴らしていると――、玄関先に声がありました。
「頼もう! 頼もう!」
「よッ。やけに古風なせりふぬかしゃがるぞ。羅生門から鬼の使者でも来やがったのかな」
 ガチャガチャしてさえいたら、それでむしが納まるとみえて、しきりにひとりではしゃぎながら出ていったようでしたが、まもなく引き返してくると、鬼の首でもとったように手の中で一通の書状をひらひらさせながら、…

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