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学規
がくき
作品ID57976
著者会津 八一
文字遣い旧字旧仮名
底本 「會津八一全集 第七卷」 中央公論社
1982(昭和57)年4月25日
入力者フクポー
校正者鴨川佳一郎
公開 / 更新2017-07-01 / 2017-06-25
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


 古い日記や手紙などを、みんな燒いてしまつたので、こまかに時日をいへないが、まだ若い中學教師であつた私が、牛込下戸塚町の素人下宿から、小石川豐川町へ引越して、その時越後から出て來たばかりの三人の書生と初めて所帶を持つたのは、たしか大正のはじめであつた。その時書生たちが机を並べた八疊の間の床の間の壁に、私がその人たちのために作つた四か條の學規といふものを自筆で書いて貼らせた。けれども受驗勉強で夢中になつてゐる書生たちは、誰一人としてそんな文句に目をくれるものもなく、どれほど窮屈な氣持で、これをうとましく思つたものもなかつた。けつきよくこの學規は、私自身のために私が作つて、書いて、そして自分を警しめるだけのものになつてしまつた。それから四十年にも近く、今の老境にはいつても、いつも親しくなつかしい氣持でこの四か條が思ひ出される。
 私はもとから理想とか、主義とか、抱負とかいふやうなものがあるのか、ないのか、自分にもはつきりしないが、とにかくそんなことを大ツぴらに口を出していひ立てるのを好かない。そのせいか、私の學規も昔からあるものとはだいぶ樣子がちがふやうだ。これくらゐのところを目安にしてかかるなら、長い一生の末までには、いくらか實行が出來るのではあるまいか。

秋艸堂學規
一 ふかくこの生を愛すべし
一 かへりみて己を知るべし
一 學藝を以て性を養ふべし
一 日々新面目あるべし
以上



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