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字幕閑話
じまくかんわ
作品ID58958
著者秘田 余四郎
文字遣い旧字旧仮名
底本 「群像 第十三卷第十號」 大日本雄辯會講談社
1958(昭和33)年10月1日
初出「群像 第十三卷第十號」大日本雄辯會講談社、1958(昭和33)年10月1日
入力者大久保ゆう
校正者富田晶子
公開 / 更新2018-01-01 / 2018-01-01
長さの目安約 6 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 映畫はさすがに大衆のものだけあつて、わたしのような外國映畫の臺詞を飜譯している、いわゆるスーパー屋さんにまで、ファン・レターならぬいろいろの手紙が、思わぬところから舞いこんでくる。
 半年ほど前だが、東北のさるところから屆いたはち切れるほど部厚な封書は、マニアじみた國字改良論者からのものだつたが、彼氏自ら苦心考案するところの略字、略号を克明に並べ立てて、中國の略字政策も遠くおよばぬ抱負經綸をるる述べてあつた。結局は、この教祖、わたしにもその使徒の一人になれとのたまわくのだが、うかつに返事でも出そうものなら、前に何倍する長文のご書翰を賜りそうなのに辟易して、わたしは單なる敬意だけにとどめておいた。それにしても、その説き起し説き去るくだりは、およそ制限漢字など無視した詔勅のごときものであつたのは、この教王があるいは大いにユーモアを解されるご仁かとも思われたことであつた。
 また、これはごく最近、「スパイ」という映畫で、フランスの口中清凉劑ごときものが出てくるので、それを分りやすく、日本で最もよく知られている清凉劑の名におき變えたら、ある日、その製造元から、その社の製品のオール詰め合わせの小包がとどき、「わが社の製品が歐米諸國においても廣く認められんとする(まさか!)趨勢を裏書することに力を借した」といつた意味のうまくこじつけた表彰状ごときものがついていたのには、苦笑せずにはいられなかつたが、それとは別に、そのときほど、世のなかに、女房ほど欲の皮のつつぱつた人類はいないものだと痛感されたことはなかつた。「こんどは、どこかの銀行の名を使つてみなさいよ。ギフト・チェックぐらいくるかもしれないわよ」と、こと欲に關しては、とつさに、よくもまあ、こう頭腦が廻轉するものである。
 とんでもない! 銀行はこりごりである。銀行では、いちど、苦い思いをさせられたからである。
「女優ナナ」という映畫のなかで、Comptoir de Cr[#挿絵]dit Imp[#挿絵]rial という原語を「帝國信用金庫」と何氣なくやつたところが、まもなく、その業界の連合會から、内容證明の猛烈な抗議文をぶつけられたのには驚いた。映畫のなかで、「帝國信用金庫」が隆々と榮えていれば文句もあろうはずはなかつたし、それこそ、女房の言い草ではないが、金一封ぐらい頂けたかもしれなかつたが、生憎と破産して取りつけ騷ぎを食うのだからいけなかつた。「故意にわが國の信用金庫を誹謗し、陷れんとするものである」というような文句を使つて、新聞紙上に謝罪文を出せとの要求である。故意とは心外であつた。映畫會社に相談したら、それは面白い、騷ぎが大きくなれば、またとない宣傳になると言う拔目なさだつた。そこで、わたしも意を強うして頬被りをしていると、相手は、こと業界の命運に關するとばかり、手段を變え、人を變えては、談判にくる。ルイ十…

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