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右門捕物帖
うもんとりものちょう
副題23 幽霊水
23 ゆうれいすい
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「右門捕物帖(三)」 春陽文庫、春陽堂書店
1982(昭和57)年9月15日
入力者tatsuki
校正者小林繁雄
公開 / 更新2000-04-08 / 2014-09-17
長さの目安約 45 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

     1

 その二十三番てがらです。
 時は真夏。それもお盆のまえです。なにしろ暑い。旧暦だからちょうど土用さなかです。だから、なおさら暑い。
「べらぼうめ、心がけが違うんだ、心がけがな。おいらは日ごろ善根を施してあるんで、ちゃあんとこういうとき、暑くねえようにお天道さまが特別にかばってくださるんだ。というものの――」
 いばってみたが、伝六とて暑いのに変わりはないのです。しかし、もうお盆はあと二日ののちに迫っていたので、おりからちょうど非番だったのをさいわい、のこぎり、かんな、のみ、かなづちなぞ大工の七つ道具を、ちんちんと昼日の照りつける庭先に持ち出しながら、しきりと今日さまにおせじを使って仕事にかかりました。というと、いつのまにか伝六が棟梁にでも商売替えをしたように思えるが、不思議なことに三年一日のごとく依然として岡っ引きなのですから、世の中にこのくらい出世のおそい男もまれです。だが、出世はおそくとも、なくて七徳、あって四十八徳、何のとりえもないように思えるこの伝六に、たった一つほめていいとりえがあるのですから、世の中はさらに不思議でした。おしゃべりに似合わず、いたって人情もろいというのがすなわちそれです。この暑いさなかに、ものものしい七つ道具を持ち出して、カンカンゴシゴシと、必死に大工のまねを始めたというのも、実をいうと名誉の最期をとげたあのかわいくて小さかった善光寺辰の新盆が迫ってきたので、お手製の精霊だなをこしらえようというのでした。
「おこるなよ。なにもおめえが小さかったんで、からかうつもりでこんなちっちぇえ精霊だなをこしらえるんじゃねえんだが、しろうと大工の悲しさに、道具がいうことをきかねえんだ。気は心といってな、それもこれもみな兄貴のこのおれが、いまだにおめえのことを忘れかねるからのことなんだ。――だが、それにしても、この精霊だなはちっと小さすぎるかな」
 骨組みだけできたのを見ると、なるほど少しちいさい。どうひいきめに見ても、たなの大きさは四寸四角ぐらいしかないのです。
「かまわねえや。どうせおめえとおれとは水入らずの仲なんだからな。さだめし窮屈だろうが、がまんしねえよ。お盆がすぎりゃまた極楽さけえって、はすのうてなでぜいたくができるんだからな。――ほうれみろ、こう見えてもなかなか器用じゃねえか。この麻幹馬だっても、でき合いじゃ売ってねえんだぞ。特別おめえはちっちぇえから、馬も乗りここちがいいように、かげんしてちっちゃくこしれえてやるんだ。持つべきものは兄貴なり、あした来がけに地獄のそばも通ることだろうから、おえんま様にちょっくらことづてしてきなよ。しゃばには伝六っていういい兄貴があるから、お客にいってめえりますとな。いい兄貴というところを、特別にでけえ声でいってきなよ――」
「もしえ……」
「…………[#挿絵]」
「あの、もしえ。だ…

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