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南蛮寺門前
なんばんじもんぜん
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「現代日本文學大系 25 与謝野寛・与謝野晶子・上田敏・木下杢太郎・吉井勇・小山内薫・長田秀雄・平出修集」 筑摩書房
1970(昭和45)年4月5日
入力者福岡茂雄
校正者松永正敏
公開 / 更新1998-06-28 / 2014-09-17
長さの目安約 32 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 登場人物
童子、順礼等        舞妓白萩
千代            伊留満喜三郎
常丸            学頭
菊枝            所化長順
老いたる男及び行人二三   所化乗円、其他学僧
うかれ男          老いたる侍


永禄末年のこと。但風俗は必しも史実に拠らず、却つて今人の眼に親うするものとす。秋の日、暮がた。後景は京都四条坊なる南蛮寺の高き石垣。そが中ほどよりやや上手に寄りて門。その扉開かれてあり。門内の広場に木立、そを透きて仄かに堂見ゆ。門前の街道に童子等集る。
童子等。(唄。)
夕やけ小やけ。
摩訶陀の池の
さんしよの魚は
きらきら光る。
玻璃のふらすこ
ちんたの酒は
きらきら光る。
鐘が鳴る。鐘がなる。
寺の御堂の
十字の金は
きらきら光る。
年少き姉妹の順礼御詠歌うたひながら下手より登場。姉なるは盲目なり。
姉の順礼 (程よき所に立留り、もの怪しむ気はひ。)何やら怪しい音がするがのう。この近くに海でもあるかいのう。
妹の順礼 何の、姉や。京の都には海があるもんかの。
姉の順礼 そんなら河の音か。そや無けりや風かいのう。わしや滅相草臥れた。今日の宿はまだかいなあ。
妹の順礼 そやつて姉や。嚮からまだ一里とも来やせぬわ。
姉の順礼 何処ぞで歌うたふ声が聞えるやうやのう。
妹の順礼 姉や。此処は立派な寺やんどの。何様ぢや知らぬけれども拝んで行かうよ。
姉の順礼 さうかいな。お寺ならば善う拝んで行かうのう。
姉妹門内を覗ひつつ、
妹の順礼 何ていふお寺やろ。遠くに、遠くに立派な本堂さまが見えるわかいよ[#「わかいよ」はママ]。
姉の順礼 ああ、わしも一目見たいのう。
妹の順礼 や。姉や。烏が。烏が。姉や。はれ烏があんなに来たよ。――お日様がもうお隠れやるかいな。――西の天が赤なつた。はれ、血のやうに赤なつたわ。姉や。烏が仰山来た。寺の屋根へ留つたは。はれ屋根が青うく光つてきた。海のやうに光つて来たわ。
姉の順礼 何ていふお寺かいなあ。
妹の順礼 これ。そこな児よ。この御寺は何といふ寺かいの。
第一の童子 (蔑むがごとき貌にて。)名など知らぬわ。
妹の順礼 和子は知らぬかいな。
第二の童子 おらも知らぬわ。ははははは。
妹の順礼 ほほ、此土地に棲んで居やるのに、名も知らぬとは賢い子等やの。
第一の童子 此御寺の名を知るものは京中にはおぢやらぬわ。たつて知りたくば中の伴天連に聞いて来やれ。ははははは。
妹の順礼 我等は他国のものやほどに教へてくれいのう。
第一の童子 このお寺は唯のお寺ではあらない。
妹の順礼 唯のお寺や無いとて、坊様が住むお寺やろがな。
第一の童子 その坊様は真の人間ではあらない。
妹の順礼 ほほ、真の人間で無いのやら、そんなら天狗様かいのう。
第一の童子 いやいや、天狗様でもあらない。もつと怪しいものぢ…

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