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久助君の話
きゅうすけくんのはなし
作品ID634
著者新美 南吉
文字遣い新字新仮名
底本 「牛をつないだ椿の木」 角川文庫、角川書店
1968(昭和43)年2月20日
入力者もりみつじゅんじ
校正者ゆうこ
公開 / 更新2000-01-27 / 2014-09-17
長さの目安約 10 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 久助君は、四年から五年になるとき、学術優等品行方正のほうびをもらってきた。
 はじめて久助君がほうびをもらったので、電気会社の集金人であるおとうさんは、ひじょうにいきごんで、それからは、久助君が学校から帰ったらすぐ、一時間勉強することに規則をきめてしまった。
 久助君は、この規則を喜ばなかった。一時間たって、家の外に出てみても、近所に友だちが遊んでいないことが多いので、そのたびに、友だちをさがして歩かねばならなかったからである。
 秋のからりと晴れた午後のこと、久助君は柱時計が三時半をしめすと、「ああできた」と、算術の教科書をパタッととじ、つくえの前を立ちあがった。
 外に出るとまばゆいように明るい。だが、やれやれ、きょうもなかまたちの声は聞こえない。久助君は、お宮の森の方へ耳をすました。
 森は、久助君のところから三町ははなれていたが、久助君は、そこに友だちが遊んでいるかどうかを、耳で知ることができるのだった。だが、きょうは、森はしんとしていて、うまい返事をしない。つぎに久助君は、反対の方の、夜学校のあたりにむかって耳をすました。夜学校も三町ばかりへだたっている。だが、これもよいあいずをおくらない。
 しかたがないので久助君は、かれらの集まっていそうな場所をさがしてまわることにした。もうこんなことが、なんどあったかしれない。こんなことはほんとにいやだ。
 最初、久助君は、宝蔵倉の前にいってみた、多分の期待をもって。そこで、よくみんなはキャッチボールをするから。しかしきてみると、だれもいない。そのはずだ、豆が庭いっぱいにほしてある。これじゃ、なにもして遊べない。
 そのつぎに久助君は、北のお寺へいった。ほんとうはあまり気がすすまなかったのだ。というのは、そこは、べつの通学団の遊び場所だったから。しかし、こんなよい天気の日にひとりで遊ぶよりはましだったので、いったのである。が、そこにも、たけの高いはげいとうが五、六本、かっと秋日にはえて、鐘撞堂の下に立っているばかりで、犬の子一ぴきいなかった。
 まさか医者の家へなんか集まっていることもあるまいが、ともかくのぞいてみようと思って、黄色い葉のまじった豆畑のあいだを、徳一君の家の方へやっていった。そのとちゅう、ほし草の積みあげてあるそばで、兵太郎君にひょっくり出あったのである。
 兵太郎君は、みんなからほら兵とあだ名をつけられていたが、まったくそうだった。こんなうなぎをつかんだといって、両方の手の指で、てんびんぼうほどの太さをして見せるので、ほんとうかと思っていってみると、筆ぐらいのめそきんが、井戸ばたの黒いかめの底にしずんでいるというふうである。また、兵太郎君はおんちで、君が代もろくろくうたえなかったが、いっこうそんなことは気にせず、みんなが声をそろえてうたっていると、すぐ唱和するので、みんなは調子がへんになっ…

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