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病む子の祭
やむこのまつり
作品ID640
著者新美 南吉
文字遣い新字新仮名
底本 「牛をつないだ椿の木」 角川文庫、角川書店
1968(昭和43)年2月20日
入力者もりみつじゅんじ
校正者渥美浩子
公開 / 更新1999-07-04 / 2014-09-17
長さの目安約 20 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


長男
長女
次男
三男(病気の子)

岡のふもとの竹やぶにかこまれた小さい家。
母親が子どもたちに祭の晴着をきせている。
花火の音。笛、太鼓のゆるやかな、かすかなはやし。

母   よごすんじゃないよ。いつもの着物とちがうんだからね、土塀にもたれたり、土いじりしちゃいけないんだよ。それから、袖ではなをふいたりしないでね。ふところから鼻紙を出してはなをかむんだよ。
長男  ごわごわするなあ、この着物。
母   いい着物だからさ。ほらいいにおいがするでしょう。
長男  薄荷みたいにすうっとするね。ぼくなんだか、心が軽くなったみたいだ。わくわくするなあ、さあ早くいこうよ。
母   そんな大きな声をたてるんじゃないよ、よし坊が目をさますから。よし坊が目をさましたら、またつれてってくれってきかないから。
長女  おっかさん、よし坊がなにかいってますよ。むにゃむにゃって、目をつむったまま、いってますよ。
母   目をさましたのかしら。そうじゃないわ。なにか夢でもみたのよ。
長女  なんの夢、みたんでしょう。病気がなおって、たこをあげてる夢かしら。よし坊は、しょっちゅう、たこをあげたいっていってたから。
長男  それからね、こまもまわしたいって、いってたよ。
次男  きのうぼくに、竹馬にのりたいって、いってたよ。
長男  ぼくたちがすること、よし坊は、なんでもしたいんですよ。病気のくせしてね。かあさん。
母   よし坊は、みんなといっしょに、なんでもしたいんですよ。
長女  そうよ、かあさん。学校へもいきたいんだって。よし坊をよくいじめた酒屋の三ちゃんがいてもいいのってきいたらね、三ちゃんがいても、学校へいきたいって。もう三ちゃんは、よし坊をいじめやしないってさ。
次男  そんなことあるもんかい。三太はだれでもいじめるんだよ。ぼくたちは同級だからいじめないけど、年下のものならだれでもなかすんだ。帽子をとりあげたり、堤の根方におしつけたり、するんだよ。
長女  でもね、よし坊は栗の実をポケットにいっぱい持ってって、三ちゃんに、もういじめないでねって、あやまるんだってさ。よし坊はとても外に出たがるのね。
母   そう、外でみんなと遊びたいのさ。でも病気だからいけないのですよ。病気がこの子にとりついていて、いかせないんですよ。病気ってどうしてこんな罪もない子にとりつくのでしょう。
長女  おかあさん、よし坊はずいぶんやせたね。手なんかむぎわらみたいね。
長男  頭もあや子のゴムまりくらいだ。
次男  きのう、帽子がかぶりたいっていったからね、ぼくが柱からはずしてきてかぶせてやったら、すこすこしてたよ。目までかぶさっちゃって、とてもおかしいんだよ。
母   さあ、たあちゃんはもうこれでいいのよ。こんどは、あや子。あや子にはどの着物がいいかね。
(たんすをあける)
長女  あた…

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