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片すみにかがむ死の影
かたすみにかがむしのかげ
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「宮本百合子全集 第二十九巻」 新日本出版社
1981(昭和56)年12月25日初版
初出「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版社、1981(昭和56)年12月25日
入力者柴田卓治
校正者土屋隆
公開 / 更新2009-03-30 / 2014-09-21
長さの目安約 1 ページ(500字/頁で計算)
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本文より




うす暗き片すみにかがむ死の影は
夜の気の定まると共に
その衣のひだをまし
光をまし 毒気をまして
人間の心の臓をうかがいて迫る。
黒き衣の陰に
大鎌は閃きて世を嘲り
見すかしたる様にうち笑む
死の影は長き衣を引きて足音はなし
只あやしき空気の震動は
重苦しく迫りて
塵は働きを止めかたずのみて
        其の成り行きを見守る。
大鎌の奇怪なる角度より発散する
三角形の光りの細胞は
舞上り舞下りて
闇黒の中に無形の譜を作りて
死を讚美し祝し――
     おどり狂う――
大鎌をうちふりうちふりて
なぎたおされんものをあさりつつ
死は音もなく歩み
頭蓋の縫目より呪文をとなえ
底なき瞳は世のすべてをすかし見て
生あるもの
やがては我手に落ち来るを知りて
      嘲笑う――
重き夜の
深き眠りややさめて
青白き暁光の
宇宙の一端に生るれば
死はいずこかの片すみにかがまりて
ひややかに見にくき姿をかくす
死のひそむ宇宙の一隅は
永劫にもだしあざ笑い
大鎌の偉大なる閃きは
夜々毎に生れ返り生き変りて
地熱のとどろきと
創造の力とには向いて戦う



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