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支那猥談
しなわいだん
著者
文字遣い旧字旧仮名
底本 「桑原隲藏全集 第一卷 東洋史説苑」 岩波書店
1968(昭和43)年2月13日
初出「外交時報 第四十三巻第一号」 1926(大正15)年1月
入力者はまなかひとし
校正者米田進
公開 / 更新2003-05-13 / 2014-09-17
長さの目安約 16 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

         一

 吾が輩は今支那の時事問題について格別の意見をもつて居らぬ。それに新春早々に當つて、堅苦しい論文より幾分氣樂な隨筆の方が却つて似付かはしい心地もするので、標題の如き支那猥談を草することにした。猥談は要するに猥談であるが、その猥談の中にも、若干支那及び支那人に對する理會を助け、日支の外交上參考に資すべき材料を發見し得るかと思ふ。
 支那は謎の國である。誰人も支那の現在及び將來は難解といふ。これは事實である。されどその謎といひ難解といふ中に、一方では支那そのものが難解であるに加へて、他方では之を取扱ふ研究者側にも不行屆の點があつて、難解のものを一層難解に陷らしむる實情がないでもない。支那にも歴史がある。世界の何國よりも長い歴史をもつて居る。この歴史を無視して支那を十分に理會し得る筈がない。
 所謂支那通と稱し、若くば稱せらるる人達の多數は、この方面の用意に缺くる所があつて、謎の支那を一層難解に陷らしむるのではなからうか。彼等の多數は現在若くば最近十數年位の限られた智識や報告によつて支那を解釋せようとする。そこに弱點があるまいか。現在の事情を明かにすることは勿論必要であるが、現在のみに即して長い過去を閑却してはならぬ。過去を離れた現在の事情のみから歸納した斷案は、基礎が薄弱を免れぬ。現在の事情は過去の智識に照らして、始めて完全に了解することが出來、過去の智識は現在の事情を明かにして、始めて有效に活用することが出來る。温故知新が支那及び支那人を十分に理解する一良法と思ふ。この猥談が若し温故知新の一助となり、猥談が必ずしも猥談のみに終らなかつたならば、望外の幸である。

         二

 去る大正十二年五月六日に突發した臨城事件、即ち津浦鐵道の臨城驛(山東省の西南部)附近で、約一千の土匪が通過の列車を襲撃して、多數の乘客を掠奪し、殊に乘合せた英米等の諸外國人二十餘名を捕虜にした事件は、頗る世界各國を驚殺させた。パリにワシントンに、民國の顧維鈞氏等が先頭に立つて、支那の覺醒を大呼宣傳した直後ではあり、支那の覺醒に多大の信頼を置いた諸外國人、就中もつとも支那を買被つて居つた米國人等は、この現實の暴露に狼狽し喫驚したのは無理でない。彼等がこの列車に一人の日本人も便乘して居なかつたといふ偶然の事實に揣摩を逞くして、或は日本人が土匪を指嗾したのではなからうかなどと疑惑を挾んだ者があつたに由つても、彼等の狼狽さ加減が推測される。
 併し此の如き事件は支那歴史上尋常の出來事である。殊に臨城附近の山東省西南部一帶の地は、古代から匪盜の叢窟であつた。曹〔州〕濮〔州〕――何れも山東省の西南地方――人といへば直に盜賊を聯想する程であつた。かの有名な水滸傳の中心舞臺として世に聞えた梁山泊も、實に此地方に在つた。水滸傳は小説としても、梁山泊の劇賊宋江等の事蹟は當…

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