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一握の砂
いちあくのすな
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「日本文学全集12 国木田独歩・石川啄木集」 集英社
1967(昭和42)年9月7日
初出「一握の砂」東雲堂書店、1910(明治43)年12月1日
入力者j.utiyama
校正者浜野智
公開 / 更新1998-08-11 / 2016-04-26
長さの目安約 35 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

函館なる郁雨宮崎大四郎君
同国の友文学士花明金田一京助君

この集を両君に捧ぐ。予はすでに予のすべてを両君の前に示しつくしたるものの如し。従つて両君はここに歌はれたる歌の一一につきて最も多く知るの人なるを信ずればなり。
また一本をとりて亡児真一に手向く。この集の稿本を書肆の手に渡したるは汝の生れたる朝なりき。この集の稿料は汝の薬餌となりたり。而してこの集の見本刷を予の閲したるは汝の火葬の夜なりき。
著者
[#改ページ]

明治四十一年夏以後の作一千余首中より五百五十一首を抜きてこの集に収む。集中五章、感興の来由するところ相邇きをたづねて仮にわかてるのみ。「秋風のこころよさに」は明治四十一年秋の紀念なり。
[#改ページ]

我を愛する歌


東海の小島の磯の白砂に
われ泣きぬれて
蟹とたはむる

頬につたふ
なみだのごはず
一握の砂を示しし人を忘れず

大海にむかひて一人
七八日
泣きなむとすと家を出でにき

いたく錆びしピストル出でぬ
砂山の
砂を指もて掘りてありしに

ひと夜さに嵐来りて築きたる
この砂山は
何の墓ぞも

砂山の砂に腹這ひ
初恋の
いたみを遠くおもひ出づる日

砂山の裾によこたはる流木に
あたり見まはし
物言ひてみる

いのちなき砂のかなしさよ
さらさらと
握れば指のあひだより落つ

しっとりと
なみだを吸へる砂の玉
なみだは重きものにしあるかな

大という字を百あまり
砂に書き
死ぬことをやめて帰り来れり

目さまして猶起き出でぬ児の癖は
かなしき癖ぞ
母よ咎むな

ひと塊の土に涎し
泣く母の肖顔つくりぬ
かなしくもあるか

燈影なき室に我あり
父と母
壁のなかより杖つきて出づ

たはむれに母を背負ひて
そのあまり軽きに泣きて
三歩あゆまず

飄然と家を出でては
飄然と帰りし癖よ
友はわらへど

ふるさとの父の咳する度に斯く
咳の出づるや
病めばはかなし

わが泣くを少女等きかば
病犬の
月に吠ゆるに似たりといふらむ

何処やらむかすかに虫のなくごとき
こころ細さを
今日もおぼゆる

いと暗き
穴に心を吸はれゆくごとく思ひて
つかれて眠る

こころよく
我にはたらく仕事あれ
それを仕遂げて死なむと思ふ

こみ合へる電車の隅に
ちぢこまる
ゆふべゆふべの我のいとしさ

浅草の夜のにぎはひに
まぎれ入り
まぎれ出で来しさびしき心

愛犬の耳斬りてみぬ
あはれこれも
物に倦みたる心にかあらむ

鏡とり
能ふかぎりのさまざまの顔をしてみぬ
泣き飽きし時

なみだなみだ
不思議なるかな
それをもて洗へば心戯けたくなれり

呆れたる母の言葉に
気がつけば
茶碗を箸もて敲きてありき

草に臥て
おもふことなし
わが額に糞して鳥は空に遊べり

わが髭の
下向く癖がいきどほろし
このごろ憎き男に似たれば

森の奥より銃声聞ゆ
あはれあはれ
自ら死ぬる音のよ…

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