えあ草紙・青空図書館 - 作品カード


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著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「日本文学全集 12 国木田独歩 石川啄木集」 集英社
1967(昭和42)年9月7日
入力者j.utiyama
校正者八巻美恵
公開 / 更新1998-11-11 / 2014-09-17
長さの目安約 25 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

  啄木鳥

いにしへ聖者が雅典の森に撞きし、
光ぞ絶えせぬみ空の『愛の火』もて
鋳にたる巨鐘、無窮のその声をぞ
染めなす『緑』よ、げにこそ霊の住家。
聞け、今、巷に喘げる塵の疾風
よせ来て、若やぐ生命の森の精の
聖きを攻むやと、終日、啄木鳥、
巡りて警告夏樹の髄にきざむ。

往きしは三千年、永劫猶すすみて
つきざる『時』の箭、無象の白羽の跡
追ひ行く不滅の教よ。――プラトオ、汝が
浄きを高きを天路の栄と云ひし
霊をぞ守りて、この森不断の糧、
奇かるつとめを小さき鳥のすなる。

  隠沼

夕影しづかに番の白鷺下り、
槇の葉枯れたる樹下の隠沼にて、
あこがれ歌ふよ。――『その昔、よろこび、そは
朝明、光の揺籃に星と眠り、
悲しみ、汝こそとこしへ此処に朽ちて、
我が喰み啣める泥土と融け沈みぬ。』――
愛の羽寄り添ひ、青瞳うるむ見れば、
築地の草床、涙を我も垂れつ。

仰げば、夕空さびしき星めざめて、
しぬびの光よ、彩なき夢の如く、
ほそ糸ほのかに水底に鎖ひける。
哀歓かたみの輪廻は猶も堪へめ、
泥土に似る身ぞ。ああさは我が隠沼、
かなしみ喰み去る鳥さへえこそ来めや。

  マカロフ提督追悼の詩

(明治三十七年四月十三日、我が東郷大提督の艦隊大挙して旅順港口に迫るや、敵将マカロフ提督之を迎撃せむとし、倉皇令を下して其旗艦ペトロパフロスクを港外に進めしが、武運や拙なかりけむ、我が沈設水雷に触れて、巨艦一爆、提督も亦艦と運命を共にしぬ。)

嵐よ黙せ、暗打つその翼、
夜の叫びも荒磯の黒潮も、
潮にみなぎる鬼哭の啾々も
暫し唸りを鎮めよ。万軍の
敵も味方も汝が矛地に伏せて、
今、大水の響に我が呼ばふ
マカロフが名に暫しは鎮まれよ。
彼を沈めて、千古の浪狂ふ、
弦月遠きかなたの旅順口。

ものみな声を潜めて、極冬の
落日の威に無人の大砂漠
劫風絶ゆる不動の滅の如、
鳴りをしづめて、ああ今あめつちに
こもる無言の叫びを聞けよかし。
きけよ、――敗者の怨みか、暗濤の
世をくつがへす憤怒か、ああ、あらず、――
血汐を呑みてむなしく敗艦と
共に没れし旅順の黒[#挿絵]裡、
彼が最後の瞳にかがやける
偉霊のちから鋭どき生の歌。

ああ偉いなる敗者よ、君が名は
マカロフなりき。非常の死の波に
最後のちからふるへる人の名は
マカロフなりき。胡天の孤英雄。
君を憶へば、身はこれ敵国の
東海遠き日本の一詩人、
敵乍らに、苦しき声あげて
高く叫ぶよ、(鬼神も跪づけ、
敵も味方も汝が矛地に伏せて、
マカロフが名に暫しは鎮まれよ。)
ああ偉いなる敗将、軍神の
選びに入れる露西亜の孤英雄、
無情の風はまことに君が身に
まこと無情の翼をひろげき、と。

東亜の空にはびこる暗雲の
乱れそめては、黄海波荒く、
残艦哀れ旅順の水寒き
影もさびしき故国の運命に、
君は起ちにき、み神の名を呼びて――
亡び…

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