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いなか、の、じけん
いなか、の、じけん
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「夢野久作全集4」 ちくま文庫、筑摩書房
1992(平成4)年9月24日
初出「探偵趣味」「猟奇」1927(昭和2)年7月~1930(昭和5)年1月
入力者柴田卓治
校正者江村秀之
公開 / 更新2000-01-13 / 2014-09-17
長さの目安約 81 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

大きな手がかり

 村長さんの処の米倉から、白米を四俵盗んで行ったものがある。
 あくる朝早く駐在の巡査さんが来て調べたら、俵を積んで行ったらしい車の輪のあとが、雨あがりの土にハッキリついていた。そのあとをつけて行くと、町へ出る途中の、とある村外れの一軒屋の軒下に、その米俵を積んだ車が置いてあって、その横の縁台の上に、頬冠りをした男が大の字になって、グウグウとイビキをかいていた。引っ捕えてみるとそれは、その界隈で持てあまし者の博奕打ちであった。
 博奕打ちは盗んだ米を町へ売りに行く途中、久し振りに身体を使ってクタビレたので、チョットのつもりで休んだのが、思わず寝過ごしたのであった。
 腰縄を打たれたまま車を引っぱってゆく男の、うしろ姿を見送った人々は、ため息して云った。
「わるい事は出来んなあ」

按摩の昼火事

 五十ばかりになって一人住居をしている後家さんが、ひる過ぎに近所まで用足しに行って帰って来ると、開け放しにしておいた自分の家の座敷のまん中に、知り合いの按摩がラムプの石油を撒いて火を放けながら、煙に噎せて逃げ迷っている……と思う間もなく床柱に行き当って引っくり返ってしまった。
 後家さんは、めんくらった。
「按摩さんが火事火事」
 と大声をあげて村中を走りまわったので、忽ち人が寄って来て、大事に到らずに火を消し止めた。気絶した按摩は担ぎ出されて、水をぶっかけられるとすぐに蘇生したので、あとから駈けつけた駐在巡査に引渡された。
 大勢に取り捲かれて、巡査の前の地べたに坐った按摩は、水洟をこすりこすりこう申し立てた。
「まったくの出来心で御座います。声をかけてみたところが留守だとわかりましたので……」
「それからどうしたか」
 と巡査は鉛筆を嘗めながら尋ねた。皆はシンとなった。
「それで台所から忍び込みますと、ラムプを探り当てましたので、その石油を撒いて火をつけましたが、思いがけなく、うしろの方からも火が燃え出して熱くなりましたので、うろたえまして……雨戸は閉まっておりますし、出口の方角はわからず……」
 きいていた連中がゲラゲラ笑い出したので、按摩は不平らしく白い眼を剥いて睨みまわした。巡査も吹き出しそうになりながら、ヤケに鉛筆を舐めまわした。
「よしよし。わかっとるわかっとる。ところで、どういうわけで火を放けたんか」
「ヘエ。それはあの後家めが」
 と按摩は又、そこいらを睨みまわしつつ、土の上で一膝進めた。
「あの後家めが、私に肩を揉ませるたんびに、変なことを云いかけるので御座います。そうしてイザとなると手ひどく振りますので、その返報に……」
「イイエ、違います。まるでウラハラです……」
 と群集のうしろから後家さんが叫び出した。
 みんなドッと吹き出した。巡査も思わず吹き出した。しまいには按摩までが一緒に腹を抱えた。
 その時にやっと後家さんは、…

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