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お菓子の大舞踏会
おかしのだいぶとうかい
作品ID928
著者海若 藍平 / 夢野 久作
文字遣い新字新仮名
底本 「夢野久作全集1」 ちくま文庫、筑摩書房
1992(平成4)年5月22日
初出「九州日報」1923(大正12)年3月
入力者柴田卓治
校正者もりみつじゅんじ
公開 / 更新2000-03-06 / 2014-09-17
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 五郎君はお菓子が好きでしようがありませんでした。御飯も何もたべずにお菓子ばかりたべているので、お父様やお母様は大層心配をして、どうかしてお菓子を食べさせぬようにしたいというので、ある日、家中にお菓子を一つも無いようにして、砂糖までもどこかへ隠して、いくら五郎さんが泣いてもお菓子を遣らない事にしました。
 五郎さんは死ぬ程泣いてお菓子を欲しがりましたが、お父様もお母様も只お叱りになるばかり……とうとう五郎さんはすっかり怒って、御飯もたべずに寝てしまいました。
 翌る日、学校はお休みでしたが、五郎さんは矢張り怒って、朝御飯になっても起きずに寝ておりました。
 お父様もお母様も懲しめのためにわざと御飯を片づけてしまって、お父様はどこかへ御用足しにお出かけになり、お母さんも一寸買物にお出かけになりました。
 あとにたった一人、五郎さんは、
「ああお腹が空いた。お菓子が欲しいなあ」
 と思いながら、涙をこぼしてジッと寝ておりました。
 すると玄関の方で、
「郵便……」
 と大きな声がして、何かドタリと投げ出される音がしました。五郎さんは思わず大きな声で、
「ハイ」
 と言って飛び起きて駈け出しますと、それは四角い油紙で、何だかお菓子箱のようです。しかもその表には「五郎殿へ」と書いて、裏には兄さん夫婦の名前が書いてありました。
 五郎さんは夢中になって硯箱の抽出から印を出して、郵便屋さんに押してもらって、小包を受け取りました。鼻を当て嗅いでみると、中から甘い甘いにおいがしました。
 五郎さんはもう夢中になって、鋏を持って来て小包を切り開いて見ると、それは思った通りお菓子で、しかも西洋のでした。……ドロップ、ミンツ、キャラメル、チョコレート、ウエファース、ワッフル、ドーナツ、スポンジ、ローリング、ボンボン、そのほかいろいろ、ある事ある事……。
 それから食べたにもたべたにも、一箱ペロリと食べてしまった五郎さんは、空箱と包み紙や紐を裏の掃きだめに棄てに行って、帰りがけに台所へ行ってお茶をガブガブ飲むと、そのまま何喰わぬ顔で蒲団にもぐり込んでしまいました。
「アラ、五郎さんはまだ寝ているよ。何て強情な児でしょう。よしよし、今にきっとお腹が空いておきて来るだろうから」
 とお母様は独り言を云って、台所の方へお出でになりました。五郎さんは可笑しくて堪らず、蒲団の中でクスクス笑いましたが、そのうちにうとうと睡ってしまいました。
 するとやがて何だか恐ろしく苦しくなって来ましたので、どうしたのかと眼を開いて見ますと、いつ日が暮れたのか、あたりは真暗になっていて何も見えません。その中に最前喰べたお菓子連中が、めいめい赤や青や紫や黄色や又は金銀の着物を着て、男や女の役者姿になって大勢居並んでいるのがはっきりと見えました。
「こんなに大勢、一時にお菓子たちがお腹の中で揃った事は無いわねえ…

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