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猿小僧
さるこぞう
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「夢野久作全集1」 ちくま文庫、筑摩書房
1992(平成4)年5月22日
初出「九州日報」1920(大正9)年1月
入力者柴田卓治
校正者もりみつじゅんじ
公開 / 更新2000-01-17 / 2014-09-17
長さの目安約 12 ページ(500字/頁で計算)
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本文より



 一人の乞食の小僧が山の奥深く迷い入って、今まで人間の行った事のない処まで行くと、そこに猿の都というものがあった。
 猿の都は広い野原と深い森に囲まれた岩の山で、その岩には沢山の洞穴が出来ていて、まるで大きなお城のようになって、その中に沢山の猿が住まってキャッキャと騒ぎまわって日を送っているのであった。乞食小僧がそこへ来ると、猿共は人間を珍らしがって大勢まわりに集まって来たが、何と思ったか、皆で小僧を担ぎ上げて、お城の奥深く住んでいる猿の王様の処へ連れて行った。王様は大きな猿で、石の椅子の上に枯れ草を敷いて坐っていたが、乞食小僧を見ると驚いて岩の天井に駈け上った。けれども小僧は落ち付いて、街で貰った煎餅を一枚懐から出して王様に遣ると、王様は大層嬉しかったらしく、家来の猿共に云い付けて果物を沢山持って来らして小僧に遣った。小僧は果物が大好きであった。そして、こんな沢山喰べ物があるならば、街で乞食をしているよりもここに居る方がずっといいと思った。
 翌る日から乞食小僧は猿共と一所になって遊んだ。そして先ず白い木の皮で冠を造って、赤い木の実で染めて、王様に冠せてやった。王様は喜んで、又沢山果物を呉れた。それから小僧は木の枝を集めて自分の家を造った。そして、感心して見ている猿共にも造ってやった。その他、小僧はいろいろな良い事を猿共に教えてやった。谷川に橋を掛ける事。怪我をした時に赤土を押し当てて血を止める事。渋柿を吊して露柿を造る事。胡栗を石で割って喰べる事。種子を蒔いて真瓜を造る事。
 その代り少年は、猿からもいろいろな軽業を習った。木登り方は先生の猿よりも上手になった。綱渡りも名人になった。枝から枝へ飛び渡ったり、足を引っかけてブラ下ったり、身の軽い事鳥のようで、地面の上を歩くよりも木の上を駈けまわる方がずっと早い位になった。その中に猿の言葉はいうに及ばず、いろいろな獣や鳥や虫の言葉まですっかり記憶えてしまったので、今は遊び友達が大変に殖えて、いよいよここが面白くて面白くて堪らないようになった。



 すると或る日の事、猿の王様の処で大変な評議が始まった。それは一匹のカナリヤが知らせに来たので、何でも山一つ向うに狼の強盗が沢山集まっていて、「猿の癖にお城に居るなんて生意気だ。これから攻め寄せてお城を取って、手向いをする奴は片っ端から喰ってしまおうではないか」と評議していると云うのであった。
 これを聞くと猿共は、赤い顔が青くなる程驚いていろいろ相談をしたが、何しろ喧嘩ずくでは狼に敵わないから一層の事、狼に喰い殺されないうちにここを逃げ出して、他の所にいい住居を探そうという事に決めた。けれども小僧はこれを押し止めて、猿共を皆洞穴の中に隠して入り口を塞いで、自分一人森の外に出て狼の来るのを待っていた。
 狼はとうとう或る夜やって来た。その数は何千か何万かわ…

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